メジャーリーグの新労使協定が無事合意にこぎつけた。概要を見てみたが、実に多岐にわたった内容が網羅されていて驚く。ひとつ注目したのは、スポーツ心理学専門家についての条項が盛り込まれていることだ。スポーツ心理学の重要性はメジャーでも注目されるようになり、今季は少なくとも半数近くの球団が専門家を雇っているとみられているが、労使協定で選手がいつでもスポーツ心理学専門家に相談ができる環境を整えることを球団に対して奨励している。ひと昔前なら、メンタルの話はメジャーのクラブハウス内のタブーという風潮があったが、その時代と比べるとずいぶん変わったものだ。

 すでに選手のメンタルケアに力を入れているのはヤンキース、レッドソックス、ナショナルズ、今季世界一のカブスなどだ。カブスは15年2月に新たな「メンタルスキル・プログラム」を創設し、世界的スポーツマネジメント会社IMGで実績を上げていた専門家のジョシュ・リフラック氏を招き責任者に据えた。さらに元外野手のダーネル・マクドナルド氏、レイ・フエンテス氏をメンタルスキル・コーディネーター、心理学者を相談役にするなど充実した体制を作り、集中力の高め方、失敗からの立ち直り方、私生活の悩みに至るまで選手のケアを行っているという。

 この他、マリナーズは昨オフ、ロッキーズでメンタルスキル・コーチを務めていたアンディ・マッケイ氏をファーム・ディレクターに任命して育成の責任者にし、メンタル・アプローチによる若手の開花を試みている。ロッキーズは今年3月、NFLデンバー・ブロンコスでパフォーマンス・コンサルタントを務めていたリック・ペリア氏をメンタルスキル・コーチに迎え、投手を伸ばすにはメンタル面が重要ということで、若手は特に相当な量のメンタル強化トレーニングを行っているそうだ。メッツのセス・ルーゴ投手は今季終盤の頃、ニューヨーク・ポスト紙に「僕らのチームにもメンタル・コーチがいるよ。もし僕が完全に自信を喪失してしまったり、強いプレッシャーで自分を失ってしまったりしているとき、彼は一瞬にしてそれを治してくれるんだ」と明かしている。メンタル面のケアは、今やメジャーで欠かせないもののようだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)