かつてない盛り上がりをみせた第4回WBCをきっかけに今、米球界で「カルチャー・クラッシュ(文化摩擦)」が議論を呼んでいる。同大会に参加した中南米各国の選手が、盛り上がる場面で本塁打やタイムリー、好プレーが出たとき「やった」といわんばかりに体で感情を表現するラテンスタイルに、米国選手が戸惑い、議論が大きな広がりをみせているのだ。大会中、米国代表のイアン・キンズラー内野手(タイガース)が「WBCを観ている子どもたちがプエルトリコやドミニカ共和国の選手とは違う僕らのプレーを見て、理解してほしい。僕らはああいうふうに野球を教えられてこなかった」と発言したことが、議論を一層ヒートアップさせた。

 メジャーには「アンリトゥン・ルール」と呼ばれる、主にマナーに関する暗黙の決まり事がいくつもあり、キンズラーの意見はそれを踏まえてのものだ。例えば本塁打を打った後に立ち止まって打球の行方を見守るような行為や、打った瞬間のバット投げなどは、誇示していると受け取られるため行ってはいけない。試合中に感情をあらわにすること、相手投手がノーヒッターを継続している最中にバントをすること、カウント3-0からバットを振ることなど、挙げていくときりがないほど、やってはいけない暗黙のルールが数多く存在する。キンズラーが言うとおり、こうしたマナーは子どもの頃から「野球の常識」として覚えてきたのだろう。

 しかし今回のWBCで、米国の野球メディアでは「ラテン系選手はWBCを楽しんでいる」「ベースボールの人気回復にはラテンスタイルの華やかさが必要なのではないか」など、ラテンのプレースタイルに好意的な論調が目立った。ロブ・マンフレッド・コミッショナーも、WBCでそれぞれの国のスタイルが出るのはむしろ望ましいといった趣旨のコメントをしている。キューバ出身のヨエニス・セスペデス外野手(メッツ)は自身のSNSに「メジャーがもっとラテン文化を取り入れれば、盛り上がるのではないか」と意見を述べる動画を投稿し、なぜラテン系選手がバット投げなどをするのかを詳しく解説した。この議論は今後も続くだろう。

 もちろん米国選手たちが、WBCを楽しんでいなかったわけではない。マーリンズのクリスチャン・イエリッチ外野手は、WBC優勝を果たしチームに復帰したとき「信じられない盛り上がりの中の試合は本当に楽しかった。USA!の声援が試合中絶え間なく続いていたんだからね。すごかったよ」と満面の笑みで語っていた。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)