野球シーズンに入ると3月に開催されたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も遠い記憶になりつつあるが、それでも今年は過去の3大会のときとはちょっと違う。4月になってもまだ、WBCの余韻が感じられるのだ。

 例えば4月12日、ヤンキースの本拠地開幕戦の試合前、WBC米国代表の優勝を祝うセレモニーが行われた。ヤンキースといえば、06年に第1回が開催された当時は大会にあまり積極的ではなく、そのイメージがいまだについている。先代のオーナーである故ジョージ・スタインブレナー氏が勝つことに強いこだわりを持つ経営者だったため、選手を心配し、派遣することに抵抗を示していたのは確かだった。

 だが今大会では、ヤンキースはメジャー登録の選手だけでも3人が出場し、トニー・ペーニャ一塁コーチがドミニカ共和国代表の監督、元ヤンキース監督であるジョー・トーリ氏が米国代表GM、球団OBのティノ・マルティネス氏とウイリー・ランドルフ氏が同代表コーチを務めるなど、球団関係者が数多く大会に参加している。セレモニーではトーリ、マルティネス、ランドルフの3氏が始球式を行い、米国の優勝を祝った。小さなセレモニーとはいえ、球団がこうしたイベントを企画するなど、かつてなら考えられなかった。

 シーズンが始まってからWBCに出場した投手の故障のニュースが出ているが、一方で「WBCに出場した選手の故障割合は、出場していない選手のそれよりも低い」という調査結果が記事になっていた。大リーグ機構の調べによると、13年の第3回大会ではメジャー40人枠に入っている参加投手40人のうち故障者リスト(DL)入りして開幕を迎えたのは1人のみ(2・5%)、出場していない投手で開幕DL入りは61人(10・1%)。今年の第4回大会では参加投手で開幕DL入りが55人中3人(5・5%)、出場していない投手は75人(12・5%)だという。もちろん、これで大会における故障リスクを心配する声がなくなるわけではないだろうが、ポジティブな側面も伝えられるようになったのは、やはりかつてはあまりなかったことだ。

 ニューヨークの地下鉄では、2年連続準優勝を果たしたプエルトリコ代表の帽子をかぶっている人を2度ほど見かけた。準優勝とはいえ、プエルトリコでは大変な盛り上がりだったそうだが、ニューヨークに住む同国出身者も、街の中でこうして誇らしげに被っている。かつての3大会では、WBCが終わってしまえばその後に話題になることもなかったが、今年は大会から約1カ月が過ぎても、こうして余韻が残っている。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)