メジャーはトレードシーズン真っただ中だが、伝える側の視点からすると、今年のトレードはやや異変が起きている。それを実感したのは、7月13日にホワイトソックスがエース左腕ホセ・キンタナを若手有望株ら4選手と交換でカブスに放出したときだ。

 メジャーのトレードは第一線のジャーナリストらがスクープ合戦を繰り広げ、さまざまな情報が飛び交うものだが、キンタナの移籍はほぼノーマーク状態で、トレードの第一報を伝えたのはホワイトソックスの球団公式ツイッターアカウント。つまり球団発表までうわさのひとつも出なかったというわけで、この規模の大型トレードには珍しい。

 キンタナのケースだけでなく、今年は有名ジャーナリストといえどトレード情報を得るのが難しくなっているように思う。そのため今、メディア関係者やファンの間で流行っているのが「ハグ・ウオッチ」というやつだ。試合中に選手が突然交代しベンチに下がった場合、ケガなどによって交代するケースの他に、トレードが決まったために交代するというケースがある。

 選手がベンチに下がり、チームメートと別れのあいさつとしてハグをすればトレード確定と思って間違いないというわけで、ハグするかどうかがウオッチングされているのだ。実際、7月25日にジャイアンツがエデュアルド・ヌネス内野手をレッドソックスへトレードすることに決まったのが試合中で、ベンチの裏に下がりチームメートとハグをしていたのを中継のテレビカメラがとらえていたため、トレードが発覚している。

 トレード情報がなかなか流失し難くなったのは複合的な理由があるだろうが、1つにはワイルドカードでのプレーオフ進出が2チームになったことで、トレード期限前に売り手、買い手どちらに回るか微妙な位置にいる球団が多くなったということもあるのではないか。

 先日、ダルビッシュ有投手のトレードで注目を集めるレンジャーズのジョン・ダニエルズGMの話を聞く機会があったが、同GMもまさに売り手、買い手どちらか立場を決めずに他球団と話をしていると明かしていた。「白か黒か、右か左かというはっきりした態度は取らない。どんなことも起こり得るし、最優先事項は今季勝つこと。こういう時期なので球団内外での会話が漏れることはあるが、それがすべてではない」という。同GMは率直に語っていたし、真実を話していたと思う。トレードシーズンは今、球団がどちらに転んでもいいよう多角的に動くのが主流になっているのではないだろうか。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)