エンゼルス大谷翔平投手にキャンプから大きな注目が集まっている。結果が出なければ米メディアからはネガティブな記事も出るが、大谷を取り巻くメジャー球界全体の空気には、ほぼ共通したセンチメントが存在している。それは「二刀流をこなすのは大変困難。しかし大谷には成功してほしい」というものだ。

 大リーグ公式サイトは今月初旬、球界幹部から大谷と二刀流についての意見を集めた特集記事を掲載しているが、それにも「米野球界の人間は、大谷に成功してほしいと願っている。なぜなら、それが球界にとってプラスになると考えているからだ」とある。

 記事中で、インディアンスのクリス・アントネッティ編成本部長は「野球技術を向上させるのは非常に難しいし、投打両方をレベルアップさせていける選手は、ほんの一握りしかいないだろう。特に先発投手としてそれなりのレベルに達するためにすべきすべてのことをこなしながら打者としても成長するのは、どれだけ大変なことか」と、二刀流のハードルの高さを指摘している。実際、メジャーではベーブ・ルースが1919年にレッドソックスで543打席、133回1/3を記録して以来、誰も二刀流をこなす選手が出ないまま99年たっている。

 しかし、大谷ならやれるかもしれないという期待感が、米国では数年前からすでにあった。筆者は、米国のどこに行っても大谷がいつメジャーに来るのかと聞かれる経験をし、みんなが楽しみに待っていることを実感した。この数年で、メジャーの状況も変わってきた。アスレチックスのデービッド・フォーストGMは「ロースターの構成が行き詰まってきた今、二刀流はぜひとも実現してほしい。25人枠しかないチームを編成する上で、それは非常に意義がある」という。メジャーで出場登録できるのが1チーム25人までに限られる中で、昨今は長いイニングを投げる先発投手が減っている分、救援投手を従来より多く抱えなければならない球団も増えている。救援投手陣を7~8人、控え野手を2~3人、捕手を2人という体制で25人枠はもう埋まってしまうため、さらに戦力を厚くするためには2つ以上のポジションを十分なレベルでこなせる選手の存在が重要というわけだ。

 ドジャースのファーハン・ザイディGMは大谷について「これほど、複数の能力を同時に持ち合わせている選手はいない。エンゼルスが彼をどう起用するのか想像もつかないが、彼の存在は二刀流が可能かどうかを見極める大きな手掛かりになる」と指摘し、前出のフォーストGMは「約6カ月後には、二刀流の前途がもう少しはっきりするだろう」と話している。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)