メジャーにとんでもない剛速球投手が出現した。カージナルスの救援右腕ジョーダン・ヒックス(21)が、1試合で105マイル(約169キロ)を2度も計測したのだ。

 100マイル(約161キロ)超えの球を投げる投手といえば数年前まではヤンキースの抑え左腕アロルディス・チャプマン(30)くらいで、一時はチャプマンが投げるたびに球場の球速表示に目がいく「表示板ウオッチ」が起こった。ところが今は、100マイル超えはそこまで珍しくはない。MLBの公式データ解析システム「スタットキャスト」によると、今季100マイル台を計測したのはヒックス、チャプマンの他、マーリンズ右腕タイロン・ゲレロ(27)、レイズ左腕ホセ・アルバラド(23)、レッドソックス右腕ジョー・ケリー(29)、ヤンキース右腕デリン・ベタンセス(30)、タイガース右腕ブルース・ロンドン(27)、カブス右腕ブランドン・モロー(33)、先発ではヤンキース右腕ルイス・セベリーノ(24)、メッツ右腕ノア・シンダーガード(25)そしてエンゼルス大谷翔平(23)と、11投手に上る。

 メジャー全体の平均球速も上がっている。そのため今は、速い球に苦労する打者の生き残りが厳しくなった。昨オフ、多くのFA選手が契約できないままキャンプに突入するという異常事態が起こったが、打者に関しては反応スピードが衰えたベテランが敬遠されたともいわれている。

 ESPNの5月20日付のデータによると、今季96マイル(約154キロ)以上の速球を30球以上投げられ、1球も安打にできなかった打者は両リーグで22人いるという。その多くは30代のベテランで、イアン・キンズラー内野手(35=エンゼルス)、ポール・ゴールドシュミット内野手(30=ダイヤモンドバックス)らが含まれる。また16年以降で96マイル以上の速球に対する打率が低いのは1割2分のクリス・デービス内野手(32=オリオールズ)、1割5分1厘のライアン・ブラウン外野手(34=ブルワーズ)、1割6分5厘のホセ・バティスタ外野手(37=メッツ)らだ。バティスタは特に年長ということもあり、今季契約が決まったのは開幕後の4月18日、ブレーブスとだった。しかし5月20日には放出され、2日後にメッツに移籍と、生き延びるのに苦労している。

 今季はもうプレーをしないと発表しマリナーズ会長付特別補佐に就任したイチローも、そういう面で戦っていたのかもしれないと思う。イチローが行っている初動負荷トレーニングの考案者・小山裕史氏がテレビのインタビューで、イチローはエンゼルス大谷クラスのヘッド速度(スイングスピード)を達成するためのトレーニングに取り組んでいると明かしていたが、それを見てやはりそうなのかなと思った。

 イチロー自身は会見で「自分が今44歳でアスリートとして、この先どうなっていくのかというのを見てみたい」と話していた。40代でスイングスピードが上がるのかどうか、まさに限界への挑戦だ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)