メジャーではキャンプインとほぼ同時期に年俸調停が行われるのだが、今年2度目の調停を行ったインディアンスのトレバー・バウアー投手(28)によって、あまり知られていなかった調停現場の様子が明らかになった。これが選手にとっては相当シビアで、辛辣(しんらつ)な言葉で責め立てられ、人間不信に陥るくらいのすさまじいものらしい。

調停に出席するのは選手本人と代理人、選手会の担当者、球団フロント、大リーグ機構の労務担当者、それに裁定人が3名。裁判に例えると代理人と選手会担当者が選手の弁護団、機構の労務担当者が球団側弁護団のようなもの。調停はまず、代理人が裁判の冒頭陳述のようなスピーチを行うことでスタートするという。当然のことながら球団側は低い金額を提示しているため、それを正当化するために選手の欠点をあげつらうことになり、調停室は殺伐とした雰囲気になる。

2017年のヤンキースと救援右腕デリン・ベタンセス(30)の年俸調停がまさにそうだった。調停1年目だった同投手は500万ドルを要求、球団は300万ドル提示だったが、当時の報道によると代理人が強気だったため罵倒がエスカレートした。ベタンセスは後に「1時間半、球団からボロクソにけなされ続けた」と閉口し、代理人のジム・マレー氏は「球場の観客動員が落ちたことや、ポストシーズンで敗退したこともベタンセスのせいにされた」と不満をもらしていた。

今回のバウアーも「球団側は調停最後の10分間、僕の人格否定に集中した。人としての僕を“抹殺”した」と振り返っている。批判はバウアーが昨年行ったチャリティーに対するものだったのだが、それは「69日間寄付計画」と銘打った個人的な活動で、最初の68日で420ドル69セントをある慈善事業に寄付し、69日目に別の慈善事業に6万9420ドル69セントを寄付するという内容だった。ところが「69」は性的なものを連想させる数字、「420」は大麻使用を示す隠語であるため、調停で品性を問われるなどしたようだ。後で球団幹部から「あれは機構の労務担当者が独断でやったこと」と弁明されわだかまりは拭い去ったようだが、人格攻撃を受けるのはやはりきつい。

このところ若い選手が年俸調停を避け長期契約を結ぶケースが目立っているが、これは調停での罵倒を避けたいという理由もあるようだ。今年から調停権を得たヤンキースの先発右腕ルイス・セベリーノ(24)が先日、4年総額4000万ドルで調停を回避し契約延長したがに「調停室での体験は非常にきついと聞いているので避けたかった」と明かしている。FA市場の冷え込みと調停の壮絶さが周知されてきたことで、調停を避けた長期契約延長を望む選手は増えるかもしれない。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)