エンゼルス大谷翔平投手(22)の二刀流の快進撃が目覚ましかったこの1年。シーズンも残りわずかということで、米メディアによる今季の「大谷狂騒曲」を振り返ってみる。

エンゼルス対ヤンキース 5回裏エンゼルス無死、右越えに42号本塁打を放ち、ナインに迎えられる大谷(2021年8月30日)
エンゼルス対ヤンキース 5回裏エンゼルス無死、右越えに42号本塁打を放ち、ナインに迎えられる大谷(2021年8月30日)

打席では本塁打を量産し、マウンドではエース級の投球をし続ける大谷へ、現地メディアは「Unbelievable(信じられない)」「Incredible(とんでもなくすごい)」「Amazing(感動もの)」等、さまざまな賛辞を贈り続けた。そのうち称賛の言葉が尽きてくると「Indescribable(表現する言葉がないほど)」と叫ぶ解説者もいた。

今季前半戦は「ベーブ・ルース以来の」が枕ことばのように使われたが、夏頃からは「ルースを超えた」という論調が増えてきた。ニューヨーク・タイムズ紙は8月19日付で「ショウヘイ・オオタニは新ベーブ・ルースか、それともまったく別の新たな何かだろうか?」の見出しで記事を掲載し、米経済紙ウォールストリート・ジャーナルは「エンゼルスのスター、ショウヘイ・オオタニは、ルース以来最高の二刀流選手ではない。ルースよりベターだ」の見出しで大谷を特集した。

大谷のすさまじさをどうやってうまく言い表すかを競い合うように、奇抜な表現を使うメディアも現れた。大谷が表紙になったスポーツ・イラストレーテッド誌の10月号は「投手の大谷は、ダ・ヴィンチが絵筆をふるうように球を投げる」と表現し、8月27日付のサンディエゴ・ユニオントリビューン電子版は「オオタニはフランツ・カフカのよう」と表現した。

人間の不条理を描いたシュールレアリスムの先駆的作家と大谷にどんな共通点が? と思いながら読み進めると、カフカは保険会社の弁護士としても働いており、工事現場などで使用される安全用ヘルメットを発明した功績があるという。複数のことにたけている人は前代未聞の偉業を成し遂げるという意味で、大谷とカフカは共通しているのだと論じていた。

エンゼルス対マリナーズ 2回の投球を終え、声を上げるエンゼルス大谷(2021年9月26日)
エンゼルス対マリナーズ 2回の投球を終え、声を上げるエンゼルス大谷(2021年9月26日)

米メディアといえば、大谷に関する発言が差別的だとして炎上した騒動が何度かあった。一番騒ぎになったのはESPNの人気コメンテーター、スティーブン・A・スミス氏が番組で「通訳が必要な選手がMLBの顔になるのはいかがなものか」と発言したときだ。スミス氏は昔から過激な発言がトレードマークで、誰も言及しないような極端な“暴論”を吐き、よく物議をかもしている。大谷の一件も、同氏にとってはそうした発言のひとつにすぎなかったのだろう。だが明らかに世間の反応が違うと気づき、異例の謝罪に至った。最近になって同氏はテレビ番組で「あの発言は私にとって、人生最大の後悔だ」と話している。こんな騒動になるのも大物コメンテーターにそこまで言わせるのも、大谷の存在の大きさゆえ。こうして大谷の話題が躍り続けたシーズンだった。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)

19日のアスレチックス戦を終え、ベンチで笑顔を見せるエンゼルス大谷(2021年9月19日)
19日のアスレチックス戦を終え、ベンチで笑顔を見せるエンゼルス大谷(2021年9月19日)