思わず、畏れ入りました、と言ってしまうようなひと振りでした。マーリンズのイチローが19日(日本時間20日)のマリナーズ戦の9回表、今季1号本塁打を放ちました。3年ぶりに古巣シアトルへ凱旋(がいせん)した3連戦の最終打席。試合後、イチロー自身が「まあ、イメージはあるじゃないですか。ただそれが実現するかどうかは別の話で。そうなったら、そりゃいいよなあ、でも、なかなか難しいよなということでしょう」と明かしたように、まさに狙って打ったアーチでした。

 かつてイチローは、「ホームランは狙って打つもの」という趣旨のコメントを残したこともありますが、本当に狙って打ってしまうのですから、さすがです。イチローといえば一般的に「安打製造器」のイメージがあるでしょうが、その長打力はメジャー球界でもよく知られています。試合前のフリー打撃で、サク越えを連発するのは毎日のルーティン。2階席への特大弾も珍しくなく、あまりにミート力が正確なこともあり、かつてはオールスター前日のホームラン競争への参加が、真剣に取り沙汰されたほどです。

 もっとも、2014年以降は3年連続で1本塁打。代打での出場が増えたこともあり、「狙っていい場面」が限られたことが、本塁打減の理由にひとつになったのかもしれません。

 その一方で、今季開幕後には、持ち前の長打力を発揮する「兆し」をのぞかせていました。初スタメンとなった4月14日のメッツ戦。2-2の同点で迎えた6回裏2死二塁、カウント3-0となっても、イチローに四球への意識は皆無でした。迎えた4球目。快速右腕シンダーガードの速球を仕留めにいきました。右中間最深部への打球は、フェンス前のアンツーカー部分で中堅グランダーソンに好捕されましたが、ヘッドを効かせたスイングスピード、打球の角度とも、「本塁打近し」を感じさせるひと振りでした。

 一般的に、年齢を重ねた選手の長打力が衰えることはあっても、飛躍的に伸びることは考えにくいかもしれません。ただ、イチローの場合、もともと長打力がなかったわけではなく、どちらかといえば、制御してきた感があります。実際、1号を放った試合後、今季の打撃について「いくつかの事をやっていますよ。具体的には言わないですけど」と、謎めいたコメントを残しています。

 今季3試合目のスタメンで放った初アーチ。これまでは安打数ばかりがクローズアップされてきましたが、今年のイチローは、本塁打数にも注目が集まるかもしれません。

【四竈衛】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「メジャー徒然日記」)