現地29、30日にイギリス・ロンドンでヤンキースとレッドソックスの2連戦、ロンドンシリーズが開催される。1993年にメッツとレッドソックスのマイナーリーガーたちがロンドンのクリケット場で4日間のイベントを開催したことはあったが、MLBの公式戦がイギリス、さらにヨーロッパで開催されるのはこれが初めてだ。

実はMLBは2000年に開催された東京でのメッツ対カブス2連戦が成功したことを受け、2002年頃からヨーロッパ市場の開拓を目的に、試合開催に動いてきたのだという。だが、一番のネックとなったのがスタジアムだった。ヨーロッパのスタジアムのほとんどがサッカーやラグビー用に設計されており、外野を十分にとることができないのである。1999年から2015年までMLBの国際部門を率いてきたポール・アーチェイ氏は在職期間中、30以上のスタジアムを視察したものの、開催に適したスタジアムを見つけられなかったとコメントしている。

では今回どうやって初開催にこぎつけたのか。それは今回の会場がロンドン・スタジアムという点にある。現在、サッカー、プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッドのホームであるこのスタジアムは2012年に行われたロンドンオリンピック(五輪)のメインスタジアムだった。そのため元々陸上トラックが設けられており、そのおかげで野球のフィールドを作ることが可能だったのである。

ただロンドン開催の壁はスタジアムだけではない。まずレッドソックスはライバル、ヤンキースとの黄金カード、ホームでの2試合をいわば中立地であるロンドンに差し出したことになる。その収益補償をMLBは行う模様だ。

さらに選手会との間で結ばれた労使協定でも海外遠征に参加する選手に補償、いわば参加ボーナスが支払われる。ロンドンや日本、アジアに遠征する場合、1選手に支払われる額は6万ドルとなっている。これはメキシコやドミニカ共和国に遠征する場合の4倍だということだ。MLBは選手への支払いだけで300万ドルを負担することになる。

スタジアムの改装費もあるし、3日間にわたって開催される様々な野球関連アトラクションが設置されるファン向けイベントなど、今回MLBの負担するコストは膨大なものとなるとみられている。

ライブでMLBの試合やハイライトを見ているファンは数万人に過ぎない一方で、ファッションとしてはMLBのアパレルを購入する消費者が約500万人もいるされるイギリス市場の開拓余地は大きいとMLBは捉えているのである。プロアメリカンフットボールNFLは2007年からロンドンで公式戦を開催しており、今年は4試合を行うまでになっている。MLBも市場を開拓することができるのか。まずは2試合の行方に注目したい。