マーリンズのイチロー外野手(41)が、オリオールズ戦に「7番左翼」で出場し、第1打席に左前打を放ち、メジャー通算2874安打を記録。ベーブ・ルースを抜き、単独で歴代42位となった。マ軍が8連敗と低迷する中、常に安打を目指すイチローの姿勢は変わらない。

 偉大な先人を超えたとはいえ、実感が湧かないのも当然だった。2回裏の第1打席。左前へメジャー通算2874本目の安打で、イチローがルースを抜き去った。ルースといえば、日本の大正から昭和初期にかけて大活躍した、メジャーの本塁打王。わずかに現存する映像や写真で知っていても、あまりにも遠すぎる存在、記録だった。

 「それこそアメリカ野球の象徴。神様みたいな人。しかもホームランバッター。だから、(感覚は)王監督の時の(得点)記録に近いかな」。本塁打にこだわったルース、王と違い、常に安打を狙い続けてきたイチローにすれば、そこまでの経緯は異なる。通算22年のルースに対し、イチローはメジャー15年目。ペースは速くても、本塁打、四球数などは遠く及ばない。「全然タイプが違って、安打の数は比較にはならない。それくらいタイプが違うんじゃないかと。体形なんかも含めてね」。

 ほんのわずか身近に感じられる時間もあった。過去、オフに何度となく訪れたクーパーズタウンの野球殿堂では、長さ89センチ、重さ1キロ以上といわれるすりこぎ棒のようなルースのバットに触れる機会があった。さらに、胸に「NY」の文字もない背番号「3」のピンストライプのユニホーム、油でカチカチに固められたグラブを手に取り、当時の野球に思いをはせた。打率4割の打者が多かった「打者全盛時代」。道具だけでなく、時代も環境も違う。「伝記に出てくるような人だからね。もちろん名前のインパクトはあるんだけど」。

 歴代の名選手の記録を超えるたびに、将来の殿堂入りへ近づいていることも間違いない。「僕がルースのホームラン記録を超えたら話をするよ」。ルースの714本塁打に対し、イチローは113本。安打数を超えても、近代野球の礎を築いた先人に対するイチローの敬意が変わることはない。【四竈衛】