イチローには完勝も、勝負に屈した。ドジャース前田健太投手(28)がマーリンズ戦に先発し、日米通じて初対決となったイチロー外野手(42)を3打数無安打に抑えた。だが7回2死まで1失点の好投も同点打を浴び、走者を残して降板。救援陣が打たれ、7回途中7安打4失点でメジャー初黒星を喫した。次回は5月4日(同5日)のレイズ戦に先発予定。

 18・44メートル前方に、バットを掲げるイチローが立っていた。ドジャース前田は不思議な感覚で見ていた。「ああっ、ていう感じ。テレビで見ることが多かったし、まさかマウンド上から見る日が来るとは思ってなかったです」。だが、投球モーションに入った瞬間、そんな感傷は消えていた。第1打席、イチローにとっての今季初三振を勝負球スライダーの空振りで奪うと、その後は三飛、遊飛。ことごとくバットの芯を外した。「幸せな時間でした」。抑えた結果ではなく、全8球の「会話」が宝物だった。

 初対面となった25日の試合前。グラウンドに姿を見せたイチローのもとへダッシュで駆け付け、直立不動であいさつした。「すごく緊張しました。でも、気さくに話してくれましたし、笑顔で迎えてくれました」。野球を本格的に始めた10歳当時(98年)、イチローはすでにスター選手。その後、イチローが米国へ渡ったことで、独特のポーズは映像でしか見るはずのないものだった。「対戦するというより、プロ野球選手になりたいと追っ掛けてた人」だった。

 そんな憧れの人を完璧に抑えた一方で、7番リアルミュートにつけ込まれた。2回に初球をソロ本塁打され、7回には9球粘られて中前打。いずれも生還を許した。試合後の前田は「ないですね」と関連性を否定したものの、結果的にイチローを封じた直後に、痛打を浴びた。

 初黒星でデビュー以来の快進撃がストップ。「すごく悔しい思いしかない。負けたので先発投手の責任であると思います」。イチローと対戦した貴重な時間と、胸にくすぶる反省。明と暗の思いが、前田をさらにステップアップさせるに違いない。【四竈衛】

 ◆球団史上2位 米記録専門会社によると、ド軍でメジャー初先発から5試合で5失点は「メキシコの怪童」と呼ばれた81年のバレンズエラの1失点に次ぐ球団2位の記録。