【ミルウォーキー(米ウィスコンシン州)=四竈衛】メジャー通算500盗塁を鮮やかに決めた。マーリンズのイチロー外野手(42)がブルワーズ戦に「1番右翼」でスタメン出場し、1回表に右前打で出塁すると、すかさず二盗を決め、大台に到達。500盗塁と2900安打をマークしたのは史上8人目。薬物使用で80試合の出場停止処分となったディー・ゴードン二塁手(28)の穴を埋めるかのように、4打数2安打1打点1四球1盗塁の活躍で6連勝に導いた。

 華々しさとは無縁でも、紛れもなく、イチローを支えてきた偉業だった。初回、右前打で出塁すると、3度のけん制で警戒されながらもタイミングを見計らった。フルカウントからの10球目。2番プラードは空振り三振に倒れたものの、トップスピードのまま滑り込んだ右足は、送球がこぼれる間に二塁へ到達した。「随分時間がかかったな、という印象です」。現役最多の記録をサラリと振り返る胸中には、幾多の思いが交錯していた。

 前夜の試合後、「弟分」のような1番ゴードンが禁止薬物使用により、80試合の出場停止処分が発表された。練習前にはクラブハウスをシャットアウトし、約30分の緊急ミーティング。雰囲気は重苦しく、連勝中を感じさせないほど静まり返った。代わって1番に指名されたイチローにすれば、沈痛な空気を拭い去るためにも、第1打席が重要だった。後続がつなぎ、3点を先制。イチローの先頭打から6連勝を呼んだ。

 近年、プレー機会が不規則なイチローにとって、盗塁への感覚はタイトルを取った01年当時とは異なっていた。「バカな盗塁は基本的にしないし、成功率半分の感覚では行かない。かなり確率が高いタイミングでしか行かないです」。42歳の年齢だけを根拠に、内野安打、盗塁の減少を指摘する声も耳には入る。そんな外野の声に反論することなく、質の高い盗塁にこだわり続けてきた。

 毎オフの神戸自主トレでは、通称「イチロー坂」でダッシュを繰り返し、開幕後は出場機会が少なくなればなるほど、走る量を増やしてきた。「走攻守」で高レベルを保ち続ける根幹は脚力。「(すべてが)そろっていないと、ここにはいないからね」。メジャー16年目で積み重ねた節目の数字。「500」の重さを感じているのは、イチロー自身なのかもしれない。