ダル、復活の1勝-。昨年3月に右肘靱帯(じんたい)の再建手術を受けたレンジャーズのダルビッシュ有投手(29)が、パイレーツ戦に先発し、5回3安打1失点7奪三振と力投し、2014年7月28日以来、670日ぶりの白星を挙げた。リハビリ期間中、肉体改造を進め、復帰初戦で最速98マイル(約158キロ)をマーク。「新生ダルビッシュ」が、100マイル超えへ力強い第1歩を踏み出した。

 万感の思いや、緊張感とは無縁だった。約1年9カ月ぶりのメジャーのマウンド。ダルビッシュは表情ひとつ変えることなく、静かにプレートへ足をかけた。「感慨にふけっている余裕はなかった。相手打者をどう打ち取ればいいか、ここ数日考えていたくらい」。初回。先頭ジェイソに中前打を許し、さらに冷静になった。3番ポランコの4球目には、早くも最速158キロをマーク。地元ファンのどよめきをよそに、小気味よくアウトを重ね、「0」を並べた。

 昨年3月17日に受けた「トミー・ジョン」と呼ばれる靱帯(じんたい)移植手術は、選手生命を左右するともいわれる大手術。年々、成功率が高まる一方で、再手術の例も少なくない。施術だけでなく、重要なのがリハビリ過程。患部の治癒と並行して、焦らずトレーニングを続ける精神面の安定感が、完全復帰へのカギともいわれてきた。

 ダルビッシュを支えてきたのは、苦難を前向きに捉えられるプラス思考だった。リハビリ期間を「逆利用」し、徹底的な栄養管理やトレーニングで体重6キロ増の107キロまでパワーアップ。「強がりでもなく、苦しい時期はなかった。そういう性格だからだと思います」。右肘への負担を減らすうえでも、総排気量を上げ、低出力でもスピードが出る高性能車にアップグレードさせる決意を固めた。全81球中、フォーシーム、シンカー、カットボールの速球系は約77%の62球。復帰戦に、新スタイルへの覚悟をちりばめた。

 冷静さを保ちつつも、交代時には久々のマウンドに充実感と疲労感を覚えた。「体はもう1回くらいいける状態でしたが、やっと終わったと思いました」。リハビリの延長との感覚を持っても、無意識に闘争心をかき立てられるのがメジャーの舞台。「まだ1試合。シーズンを通してどのくらい投げられるか。今日だけで評価することはないです」。見据えるのは、今後、待ち受ける野球人生。感傷に浸らない復活劇が、ダルビッシュらしかった。【四竈衛】