<2005年6月16日付日刊スポーツ紙面から>

 【シアトル(米ワシントン州)14日(日本時間15日)=四竈衛、木崎英夫通信員】マリナーズ・イチロー外野手(31)が、日本人選手初のメジャー通算1000本安打を達成した。「あと1本」で迎えたフィリーズ戦の第1打席に、右翼フェンス直撃の安打。通算696試合目での大台到達は、1900年以降では、史上3番目のスピードとなった。昨年マークした年間最多記録262安打に続く「安打製造機」らしい勲章だが、不振が続く中での金字塔に、複雑な心境も吐露していた。

 一塁ベース上に立ったイチローは、しばし考えた末に、地元シアトルのファンのスタンディングオベーションに応えることを自粛した。苦しみの中での1000本到達。昨年、年間257安打の年間安打記録を更新した際、帽子を掲げた当時とは心境が違った。

 イチロー

 あそこは戦いがありましたね。応えるべきかどうか。今の成績ではやるべきではないと判断しました。そういう気持ちの葛藤(かっとう)がありました。する勇気が出ないというか。

 開幕直後、好スタートを切りながら、5月以降ペースダウン。打率も3割を切る「異常事態」に陥った。1回裏の第1打席。心に沈殿したモヤモヤを振り払うようなシャープなスイングで、右翼フェンスへライナーでぶつけた。

 イチロー

 ずいぶんと予定というか、イメージよりも遅くなってストレスがたまってましたし、なかなかスッキリした感じではなかったですね。日本で1000本打った時に、安打を重ねるたびに難しくなると言ったんですが、こちらでもやっぱり変わらない。簡単になることはないな、って感じました。

 昨年、年間安打の新記録を達成し、もはや「極意」をつかんだかと思われた。日本だけでなく、米国内でも「もっとも4割に近い打者」として話題を集める存在になった。その期待に応えるように、今季キャンプ初日で、ベスト体重(76キロ)に絞り込めたほど、ほぼ完ぺきな状態で5年目に臨んだ。だが、誰もが予期しない低調期に襲われた。どんなに高い技術をもってしても、微妙な精神状態をもコントロールすることは、イチローでさえ容易ではなかった。

 イチロー

 長くやっていると、立場が変わってくるし、もらってる給料も変わってきますしね。楽にさせてくれないですよね。

 ただ、イチローにとって1000安打の陰にある倍以上の凡打の悔しさが、自らの糧(かて)になっていることに変わりはない。

 イチロー

 倍ぐらいの失敗を重ねないと生まれない。それが打撃ですから。そうやって奥深いものになってくれればいいですね。失敗を繰り返すことが。

 残り100試合。ひとまず区切りの数字は超えた。その一方で、5年連続200安打をはじめ、周囲からの期待の声は後を絶たない。これまで印象に残る安打を聞かれ、オリックス時代に「ワンバウンドの球を打った安打」を挙げたイチロー。「あとは2バウンドの球を打ちたいですね」。ジョーク交じりに漏らした声から、ここ数週間の重苦しさは消えうせていた。

 イチローの記録的安打

 ◆新人シーズン最多安打

 01年9月29日、アスレチックス戦でシーズン234安打。11年の「シューレス」ジョー・ジャクソン(インディアンス)が持つ記録を90年ぶり更新。最終的には242安打の新人記録を打ち立てた。

 ◆日米通算2000安打

 04年5月21日、タイガース戦で達成。オリックスでの1軍定着から実質11シーズン、1465試合、30歳7カ月でのスピード到達。

 ◆シーズン3度の月間50安打

 同5、7、8月と3度達成。36年のジョー・メドウィック(元カージナルス)らがマークした年間2回を68年ぶりに更新。

 ◆新人から4シーズン連続200安打

 同8月26日、ロイヤルズ戦で本塁打で決める。ロイド・ウェイナー(元パイレーツ)、ジョニー・ペスキー(元レッドソックス)が持つ3年連続を57年ぶりに塗り替えた。

 ◆シーズン最多安打

 同10月1日、レンジャーズ戦で20年にジョージ・シスラー(元ブラウンズ)がマークした記録を84年ぶりに塗り替える258安打。その後も安打を積み上げ262安打の金字塔。

 デビルレイズ・ピネラ監督(01年から2年間マリナーズ監督)

 もう1000本安打か、早いもんだな。イチローのどこがいいかって?

 あいつはバットを持ったマジシャンだ。三振しない、苦手なコースがない、広角に打てる、走れる、バントができる…。多くの要素を兼ね備えている。メジャーで2000本打てるかって?

 今31歳か。打てる!

 あと5年で2000本安打に到達するだろう。

 メッツ松井

 素晴らしい記録。でもイチローさんはこれで終わりではないから。明日からはまた新たなスタートを切ると思います。

 メッツ石井

 短期間で積み上げた数字という意味ですごいですね。

 マリナーズ長谷川

 こちらでも、狙えばホームランは打てるのに自分の生きる道を見つけてやっている。自分の色を出したかったんやろね。その考え方が僕は好き。彼の信念を尊敬している。(エンゼルス時代に対戦し)2安打ばかり彼の記録には協力してます。でもね、日本人だからひいき目に言うのではないけど、ヒットを打つ技術は誰よりも上ですよ。

 イチローの父、鈴木宣之さん

 日本人で初めてのことなので誇りにしていいと思う。生みの苦しみを味わい、イチロー自身がもう一回り成長してくれるといい。

 オリックス仰木監督

 改めて向こうでもう1000本以上も打ったのかという感じですね。ついこの間、メジャーに行ったような感じなのに。とにかくけた違い…。彼のことで印象深いことはいろいろありますが、イチローと命名したこと。あとはオールスターで投手を務めたときの、地鳴りのような球場の歓声、フラッシュ、そして優勝でしょうか。すごいなあと思うのは、挑戦するMVPであること。まだあと10年は現役を続けるでしょうが、出来るだけ今に近い状態で野球を続けて行ってほしい。

 横浜佐々木

 彼にとってはまだ通過点だと思うし、これからも頑張って欲しい。日ごろの努力のたまものですね。