<2006年9月18日付日刊スポーツ>

 【カンザスシティー(米ミズーリ州)16日(日本時間17日)=四竈衛】マリナーズ・イチロー外野手(32)が、大リーグ史上3人目となる6年連続200安打を達成した。あと2本で迎えたロイヤルズ戦で第1打席に中前打、第2打席でも左前打を放った。新人からの記録では自己の持つ記録を更新した。第5打席でも左翼線へ適時二塁打を放つなど、5打数3安打1打点。また、3回表には三盗に成功し、1シーズンの33回連続盗塁成功のア・リーグ新記録を樹立した。また「3番・捕手」で出場した城島健司捕手(30)は3打数1安打1打点だった。

 開幕以来、見せることのなかった、温厚で柔和な笑顔だった。試合後、シャワーを浴び、着替えを済ませたイチローは、充足感をかみしめるように、胸の内にたまっていた思いを、次々と言葉に変えた。

 イチロー

 重かったですね。解放されました。(デビュー以来)続けてるんでね。途切れていれば別でしたけど。

 あと2本で迎えた一戦。第1打席に中前へ運び、王手をかけた。「早く片付けたい」と思って向かった第2打席。2球目をジャストミートして左前へはじき返した。敵地カンザスシティーの観客席は、わずか1万2116人。その大半が記録に気付かなくとも関係ない。塁上のイチローはしみじみと解放感に浸った。毎年終盤に襲って来る重圧。自ら「孤独を感じる」とまで言う重みに、今年も耐え、そして乗り越えた。

 イチロー

 何回やっても強い自分にはなれない。むしろ弱さしか見えてこないんです。強さを感じているのならそうでもないですけど、全く違うからやっぱり目標です。

 04年のメジャー最多262安打を筆頭に、イチローと200安打は切り離せないものになった。周囲の声や視線が「当然のこと」になればなるほど、イチローの感じる重さは増した。メジャーでも年間5人程度しか達成できない高い「目標」でありながら、いつしか「基準」になりつつある現実。180本を過ぎた8月下旬ころから徐々に重圧は高まり、表情も険しさを増した。だが、一瞬たりとも弱さを見せることはなかった。

 イチロー

 (支えてきたのは)感情を抑えることです。煮えくり返ることもありましたが、それを出したら自分が壊れるしかないですから。今年できたら来年はできなくてもいい、ぐらいの気持ちでこの時期はやってました。リラックスするには、この日を迎えるしかなかったんです。

 今季も、チームは早々とプレーオフ進出争いから脱落した。試合の勝敗に必要以上の重圧を感じない一方で、ふがいない戦いの中でテンションを維持することも簡単ではない。だが、イチローはそのいずれの状況をも、自らの安打や記録につなげることはしなかった。

 イチロー

 選手というのは負けているチームだから難しいとか、簡単ということもない。勝っていてもそう。いつでも何かある。簡単にはなり得ないです。

 日米通算2500安打、6年連続200安打をクリアしてもなお、技術面での模索は「いつものようにある」と言う。だからこそまた、前進に伴う苦しさも受け入れられた。

 イチロー

 苦しい間にいろいろな人にグチやバカっ話を聞いてもらったりするんです。本音が言える人は限られていて、その人たちの顔が浮かびました。

 自ら壊れそうになるほどの弱さや孤独感を認め、それらを乗り越えたイチローは9回表2死、201本目の安打を放った。

 ◆マリナーズ・ハーグローブ監督(イチローの記録について)「簡単に打っているように見えるかもしれないが、この記録がどれぐらい難しいものか、見ている人は分かっているのだろうか。これを6年も続けるなんて、驚くべきことだ」

 ◆殿堂入り?

 シーズン200安打を6度以上マークしたのはイチローで16人目。過去15人のうちローズとガービーを除く13人は殿堂入りしている。ローズは野球賭博で永久追放されなければ殿堂入りしていただけに、実質縁がなかったのはガービーだけ。(2006年9月18日付日刊スポーツ紙面から)