今季の移籍先が決まっていない松井秀喜外野手(37=アスレチックスFA)が「無言の決意」で渡米した。22日、成田空港から米ニューヨークに出発した。空港では関係者にガードされるように移動し、報道陣の質問には応じなかった。25日前後から各球団の野手組のキャンプが本格的にスタート。当初は移籍先が決まるまで渡米しない予定だったが、急な参加にも対応できるように方針転換した模様。置かれた状況は厳しいが、米国内でメジャー10年目の吉報を待つ。

 松井が右手の人さし指を、そっと唇に当てた。「静かに」を意味するジェスチャー。「シーッ」と小声で言っていたずらっぽい笑みを浮かべたのとは対照的に、周囲の“ボディーガード”が警戒感を漂わせる。搭乗ゲートに向かう移動時は、空港関係者8人に身を守られるように歩いた。結局、渡米直前の成田空港では、報道陣の問いかけには一切答えることなく、機上の人となった。

 “いつもの松井”とは様子が違った。取材対応にはできる限り足を止め、快く応じてきただけに、口を閉ざすこと自体が珍しかった。これまでとは、置かれた状況が違う。メジャー10年目を迎える今オフは所属先が決まらずに初めて越年。ヤンキースなど複数球団が興味を示すも合意には至らず、ここまで長期化するとは想定外だったに違いない。「無言」には、言葉にできない複雑な思いもにじんでいたように見えた。

 今回の渡米のタイミングは、野手組キャンプスタートを狙ったものといえる。3月の日本開幕戦を見据えて前倒ししたマリナーズを除けば、各球団は24~28日に初日を迎える。年明けから都内で自主トレを行ってきた松井は、1月の時点で「ビザ取得の問題もあるので、所属先が決まって渡米する」と話していたが、方針を転換した。練習拠点を米国に移して時差ぼけを解消し、体調を整えておけば急な動きにも対応できる。いつキャンプに呼ばれてもいいように準備しながら、吉報を待つ。

 移籍の見通しは依然厳しい。ア・リーグの指名打者(DH)は陣容がほぼ固まり、同タイプのゲレーロ、デーモンら実績のあるベテラン選手でもまだ所属が決まっていない。レギュラー扱いの契約を得るのは難しく、マイナー契約の可能性も出てきている。ただ、大リーグではキャンプ途中に契約合意する例も少なからずある。自宅を構えるニューヨークに出発した松井。無言のメッセージにこめた思いを、新天地で爆発させる時が待ち遠しい。

 ◆米国ビザ

 プロ野球選手が大リーグ移籍する場合、長期間の労働目的のため就労ビザが必要となる。米国大使館に申請し、書類審査と面接が必要で一般的には1~2週間かかる。米国滞在時の場合、カナダなどに1度出国して手続きをする。ビザの種類はA(外交・公用)、B(商用・観光)などアルファベットで大まかに種類が分かれ、野球選手が関係するのはP。1回につき90日以内の短期滞在であれば、ビザ免除で入国できる。