<オープン戦:マリナーズ6-4レンジャーズ>◇12日(日本時間13日)◇アリゾナ州ピオリア

 マリナーズのイチロー外野手(38)が審判に「喝」を入れた。6回、味方の左前打で二塁から本塁を狙い、クロスプレーに。左手で一瞬早くベースにタッチしたように見えたが、判定はアウトだった。オープン戦にしては珍しく抗議。一昨年、誤審で完全試合をフイにしてしまったジム・ジョイス審判(56)が球審だったこともあり、「僕らは遊んでいるわけじゃない」と、シーズンを見据えて訴えた。

 「ジム!」。ジョイス球審をファーストネームで呼ぶと、イチローが珍しく抗議に出た。問題のシーンはオープン戦初盗塁を決めた後の6回裏無死一、二塁から起きた。5番カープの左前打で、二塁走者のイチローが一気に本塁へ突っ込んだ。ワンバウンドの好返球がロビンソン捕手のミットに収まる。滑り込むと最後、可能性を求め左手でベースタッチ。イチローの左肩後ろにミットが触れる追いタッチに見えたが、審判の判定はアウトだった。

 「わざわざ説明するようなプレーではないよ。それぐらいセーフです。僕らは遊んでいるわけじゃないから」。ジョイス球審に詰め寄った時の顔は苦笑いまじりだったが、内心は怒気に満ちていた。試合後、ロッカー室で隣に座る川崎も言葉を添えた。「(セーフは)間違いない。あれぐらい(抗議に)いかないと」。

 ジョイス球審は“完全試合大誤審”で有名になった審判だった。一昨年6月、完全試合を目前にしたタイガース・ガララーガの一塁ベースカバーにセーフの判定を下し、試合後のビデオ確認で涙目で“誤審”を認めている。イチローから何を言われたのか、と問われた同球審は「ジム!

 のひと言だけだったけど、手より前にミットが左肩の後ろを触っていたのをこの目で確かに見たからね」と、毅然(きぜん)と答えた。

 ただし、ジョイス審判に限らず、近年は怪しい判定が目立っている。それだけに、この日の「ひと言抗議」は、1点の重みが違う本番へ向けてのイチローの強いメッセージでもあった。【木崎英夫通信員】

 ◆誤審VTR

 10年6月2日、タイガースの本拠地で行われたインディアンス戦で起きた。タ軍先発ガララーガ(現オリオールズ)は完全試合まであと1アウトという9回2死、イ軍ドナルドを一、二塁間への緩いゴロに打ち取り、自らベースカバーで一塁へ。ウイニングボールをつかんだはずが、ジョイス一塁塁審はセーフの判定。同投手がベースを踏んだとき、ドナルドは一塁の50センチ手前だった。同塁審は試合後にビデオを確認して誤審を認め、翌日のメンバー交換に登場したガララーガと涙ながらに握手して「和解」した。ただ今季でメジャー26年目の同審判は皮肉にも同年、堅実なジャッジも認められ、現役選手が選ぶ「NO・1審判員」に輝いた。