<アスレチックス1-3マリナーズ>◇28日◇東京ドーム

 マリナーズ・イチロー外野手(38)が、開幕戦自身初の4安打で2012年シーズンの幕を開けた。

 メジャー12年目で初の凱旋(がいせん)開幕試合となったアスレチックス戦。1回、たたきつけた打球が高くバウンドして投手の頭上を越える、イチローらしい遊撃内野安打で今季初安打。4回にも俊足を飛ばして遊撃内野安打を放つと、6回には中前打で3打席連続安打。1点を勝ち越した直後の11回1死二塁では、中前に鋭く打ち返して今季初打点を挙げた。5打数4安打1打点で、延長11回、開幕戦勝利に大きく貢献した。

 「特別なものになる」と気持ちを高ぶらせていた一戦で誰よりも大きな声援と、フラッシュを浴び続けた。最後は満員のファンのスタンディングオベーションの中、珍しく右翼席に手を振ってベンチに引き揚げ、「格好はついたかな」と振り返った。

 新生マリナーズが目指す攻撃スタイルを、3番イチローが示した。4安打を放ったことより「今日の試合で一番大きいプレー」と胸を張った11回の5打席目。1点を勝ち越し、なおも1死一塁の場面だった。カウント1-1から走者アクリーが、二塁にスタート。イチローは投球がストライクとわかるや、スイングを途中でやめ、二盗成功をアシストした。

 自らは追い込まれたが、「先に進むのが優先」と意に介さず、体勢を崩しながらセンター前に転がした。ここで、2つ目のアシストが出る。本塁送球と、生還を狙う走者のタイミングが微妙と見て、イチローは故意に二塁へと向かった。一、二塁間ではさまれる間に、3点目が入った。ベンチに戻るイチローを、満員で埋め尽くしたスタンドのファンが、スタンディングオベーションで出迎えた。

 適時打だけではない価値があった。いずれも先を読み、意識していないとできない瞬時の判断。近年低迷するチームに足りなかった献身のメッセージが、一連のプレーに凝縮されていた。得点力を期待されて新しい打順を任されたイチローが開幕戦で機能し、起爆剤となった。

 今回のメジャー開幕戦は、東日本大震災の復興支援という側面もある。宮城・石巻の野球少年ら被害にあった人々が多数招待されていた。これまで震災についてのコメントを控えてきたイチローだが、開幕戦公式プログラムのインタビューで、秘めた思いを語っている。

 「それ(復興支援)を目的にはできない。人の心を動かすとか、勇気を与えるとか、よくあるフレーズですけど、それが目的となったら無理。与えられるわけがない。なるとしたら結果として、そうなるだけ。結局、受け手側がどう感じるかの問題ですから。受け手側が何かを感じたとしたら、結果的にそうなったと言える」

 軽々しいことはできないし、決して言わない。ただその使命だけを胸に秘め、4安打で、適時打で、記録に表れないプレーで野球の醍醐味(だいごみ)を魅せた。東京ドームに集まったファンと一体化した。かけがえのない時間を共有した。この延長戦が、いつまでも続いてほしい。もっと打席を見たい。そう思わせた。人の心を動かす力が、イチローのプレーには確かにあった。【柴田猛夫】