<マリナーズ1-4ヤンキース>◇23日(日本時間24日)◇セーフコフィールド

 【シアトル(米ワシントン州)=木崎英夫通信員】ヤンキースに電撃移籍したイチロー外野手(38)が再出発を白星で飾った。マイナー2投手とのトレードが発表された数時間後、古巣となったマリナーズ戦に「8番右翼」で出場。新たな背番号31を背負い、移籍初打席で中前打を放つなど4打数1安打、1盗塁も決めた。12年目を迎えたマ軍では打率2割6分1厘と低迷し、新たな刺激を求めて移籍を志願。常勝軍団で心機一転、これまで縁のなかったワールドシリーズ制覇を目指す。

 スリムな体に、少しだぶついたユニホーム。背番号31のイチローが打席に向かうと、総立ちの観衆に迎えられた。ヘルメットをとり、2度おじぎ。セーフコフィールドに、大きく温かい拍手が鳴り響いた。目元を潤ませながらの2球目。マリナーズファンへの惜別の思いをこめた打球が、ライナー性の当たりで中前に抜けた。

 イチロー

 11年半、ここではあまりにもいろいろなことがありました。ああいう反応を目の当たりにすると(頭が)真っ白になりましたね。何にも思い浮かばなかったです。ただただ、その瞬間に感激したという感じでした。

 日米球界の話題を独占したビッグニュースは、異例の形で駆けめぐった。試合相手のヤンキースへのトレードが試合前に発表され、数時間後には敵チームの一員として出場。そんなサプライズに、球場全体が反応した。地元テレビ局はマ軍での名場面集を度々流し、功績をたたえた。スタンドには「THANKS

 ICHI」などのプラカードが掲げられ、送別ムード一色に染まった。

 試合開始3時間前に行われた記者会見では、トレードに至る心境を明かした。「オールスターブレーク(球宴休み)の間に自分なりに考え、出した結論は、20代前半の選手が多いこのチームの未来に来年以降、僕がいるべきではないのではないか、ということでした。そして僕自身も、環境を変えて刺激を求めたいという強い思いが芽生えてきました」。前半戦を終えた約2週間前に、他球団への移籍志願を決断。低迷するマ軍での地区優勝は、大リーグ移籍1年目の01年しかない。世界一27度を誇る常勝軍団で、初のワールドシリーズ制覇を目指す新たなチャレンジとなる。

 会見後、いつもとは逆のビジター側クラブハウスで新しい同僚に歓迎された。「僕はどこかなあ」とつぶやきながら自分のロッカーを探し、ジーターや黒田と握手した。愛着ある背番号51にも別れを告げた。「確かに特別な番号ですけど、ヤンキースでは(名選手バーニー・ウィリアムズの番号で)僕はつけることはできない。『1』が欲しかったというのはありますね」と、31番に新たな決意をこめた。

 移籍初戦は「8番右翼」で4打数1安打デビュー。今後は不慣れな左翼を任される方針だが「もう怖いですよ、環境が変わることが。不安ですよ。ただ、そう決意したわけですから。その覚悟を持っているつもりです」。勝利を届ける最後の飛球が、偶然にも飛んできた。苦悩、別れ、旅立ち。さまざまな思いが交錯した「特別な1日」を終え、晴れた心はもうヤンキースの一員だった。