<ア・リーグ優勝決定戦:タイガース8-1ヤンキース>◇第4戦◇18日(日本時間19日)◇コメリカパーク

 イチローの夢が、散った。ヤンキース(東地区1位)がタイガース(中地区1位)に敗れ、4連敗での敗退が決まった。イチロー外野手(38)は「1番・左翼」で3打数無安打。今季途中にマリナーズからトレードで移籍して11年ぶりのプレーオフだったが、またしてもワールドシリーズには届かなかった。

 夢がついえた脱力感と、長年求めていた充足感が、イチローの目頭を熱くした。タ軍の前に、実力を出し切れず4連敗。あっけない幕切れに実感が湧かなくても、ヤ軍の一員として、しびれるような舞台でプレーできた喜びは格別だった。

 「悔しい思いしかないです。ただ、こういう気持ちは久しく味わっていなかった。いろんな時間を僕に与えてくれて、最後、こういう形で負けてしまいましたけど、本来持っている気持ちを思い出させてもらって、感謝の思いしかないですね。この場所には」

 7月23日。野球人生をかけてヤ軍へ移籍した。01年にポスティング(入札制度)でマリナーズに入団した当時とは、環境も意識も違う。当時は移籍先を選べない制度だったが、マ軍以外であれば日本残留の意思を固めていたほど、マ軍でのプレーを望んだ。デビューイヤーは新人王、MVP、地区優勝。すべてがいい流れだった。

 だが、その後はチームは低迷。個人記録ばかりが脚光を浴び、いつしか野球人としての本能を忘れかけていた。しかも、押し寄せる年齢、体力的な限界点は着実に忍び寄っていた。だからこそ、常勝を義務付けられるヤ軍を、新天地として選んだ。

 「ここ(ヤ軍)でしか味わえないことが確実に存在するということ。シアトルでプレーしていて、すごく孤独になる時間が多かったですけど、そこで自分なりにそれと闘ってきたことは、確実に自分の力になっていたと思いました」

 それでも、Wシリーズ、世界一には届かなかった。ただ、今のイチローに悔いはない。「もっとやっておけばよかったということは一切ないですけど、結果としてもっとできることはいっぱいあった。それは当然ですけどね、そういうゲームですから」。

 個人記録の重圧から解放され、野球選手としての原点に立ち返ったシーズン。志半ばで敗れたとはいえ、22日に39歳の誕生日を迎えるイチローにとって、何物にも替えがたい、宝物のような1年だったに違いない。