神戸市の神戸総合運動公園の案内所に展示されていた米大リーグ、ヤンキースのイチロー(39)のサイン入りバットを盗んだとして、兵庫県警須磨署は7日までに、窃盗の疑いで、同県伊丹市の無職少年(19)を逮捕した。警報音が鳴ったことで警備員と警察官が急行し、事件発生から約35分後に近くの駅でバットをもった少年が発見され、逮捕された。毎年イチローが自主トレをする聖地での犯行で、少年は「コレクションにしたかった」と供述している。

 よっぽどイチローが好きだったようだ。イチローのサイン入りバットのすぐ隣には、サッカー日本代表のFW香川、岡崎、MF長谷部、DF長友、GK川島ら23人とザッケローニ監督が11年10月に代表合宿をした記念として寄贈したサイン入りユニホームも飾られていたが、一切、手を付けていなかった。犯行に及んだ少年は「イチロー選手のファンで、バットをコレクションにしたかった」と供述しているという。

 事件は、神戸市須磨区にある総合運動公園案内所で6日午後11時15分ごろ発生した。玄関のドアの強化ガラスが割られた。続いて、イチローのバットが収められたプラスチックケースも粉々に割られた。警報音が鳴って、警備員が駆けつけ、すぐに110番通報された。須磨署員も現場に到着し、周辺を捜索した。地下鉄の総合運動公園駅にポツンと少年が立っていた。手にはスポーツバッグを持っていて、入りきらない長い何かが新聞にくるまれて飛び出していた。中からバットが出てきた。イチローのサインがあった。署員が問いただすと、少年は素直に犯行を認めたという。

 公園を管理する市公園緑化協会によると、バットはイチローが米大リーグのマリナーズに所属していた07年2月15日に寄贈された。イチローはかつて在籍していたオリックスが本拠地にしていた縁もあり、毎年神戸で自主トレを行っている。同公園は、渡米する前に体を仕上げるイチローの聖地といえる場所だった。

 盗まれたバットに傷はないが、事件の証拠品としてしばらく須磨署に保管され、すぐには返却されないという。総合運動公園の案内所の担当者によると「バットはイチローさんの善意でいただいたもので、市民の宝。値段のつけようがない。今後はプラスチックではなくケースの素材の強度を検討する必要がありそう。無事で安心しているが、早く戻ってきてほしい」と困惑していた。

 ◆MLBの主な選手の記念グッズの値段

 イチローの公式戦使用バットやサイン入りバットは、ネットオークションに複数出品されており、値段は3万円前後から250万円までさまざまだが、野球選手のグッズは、古ければ古いほど価値が高まる傾向にある。昨年5月、米大リーグで714本塁打を記録した強打者ベーブ・ルースがヤンキースに移籍した年(1920年)のユニホームが441万5658ドル(約3億5300万円)で落札された。10年11月には、1世紀前の名選手パイレーツのホーナス・ワグナーの野球カードが26万2000ドル(約2096万円)で落札。11年11月、当時アスレチックスだった松井秀喜の日米通算500号本塁打のボールは3万1070ドル(約230万円)で落札されている。(ドルの円換算は当時)

 ◆神戸総合運動公園

 1985年、ユニバーシアード夏季大会開催に合わせて、神戸市須磨区に建設された運動施設。陸上競技場「ユニバー記念競技場」、体育館「グリーンアリーナ神戸」、野球場「ほっともっとフィールド神戸」などがありサッカーJリーグの神戸やプロ野球オリックスなどが本拠地としている。