<ア・リーグ優勝決定シリーズ:レッドソックス5-2タイガース>◇19日(日本時間20日)◇第6戦◇フェンウェイパーク

 レッドソックス上原浩治投手(38)が、日本人選手初のリーグ優勝シリーズMVPに輝いた。7回にビクトリノの逆転満塁弾が飛び出すと、上原が最終回を締めて胴上げ投手になった。今シリーズ1勝3セーブの活躍で、文句なしのMVPを勝ち取った。レ軍は07年以来6年ぶりのワールドシリーズ出場で、23日(同24日)からカージナルスと世界一をかけて戦う。

 ヒゲ面の猛者たちの中心に、人さし指を突き上げた上原がいた。9回表2死二塁。最後はやはり、ここまでの道のりを支えてきたフォークだった。地区優勝、地区シリーズと同じように、空振り三振でフィニッシュを決めた。

 「率直に言うと、よかったなと。それだけです。シーズンとは違う緊張感があるんで。今回はずっと1点差とか同点の場面ばっかなんで、ちょっとしんどかったですね」

 興奮と安堵(あんど)感で、顔を紅潮させたまま、表彰ステージに上がると、そこにはMVPのトロフィーが待っていた。「正直、怖いですね。今年、ちょっと出来過ぎなんで」。極度の重圧の中、黙々と投げ続けてきたご褒美が、最高の勲章だった。

 今でこそ、総立ちのファンから「コージコール」「MVPコール」を一身に浴びる存在となったが、数カ月前までは上原自身でさえ、プレーオフ表彰の壇上からながめる光景は想像できなかった。昨年12月、レ軍と正式契約を結んだ際、集まった報道陣はわずか5人。ひな壇のある会見場ではなく、立ったまま、新天地での思いを語った。「大事な1年になると思います」。メジャー5年目を「節目」ととらえ、役割の定まっていない厳しい環境に、自らの意思で飛び込んだ。

 体に染みついた反骨心を原動力に変えてきた。東海大仰星高時代は、エース建山(ヤンキース傘下3A)の控え投手。中堅手だった当時、球質の良さから先輩専用の打撃投手として重宝される間に、精巧な制球力を磨いた。浪人生活を経て大体大に進学し、その後、頭角を現したこともあり、巨人入団した99年、モットーの「雑草魂」が流行語大賞に選ばれたが、今もその心意気は変わっていない。

 今季も開幕は注目度の低い中継ぎからスタートした。その一方で、クローザーを奪い取る決意は揺るがなかった。「結果が付いてくれば、ポジションは与えられる」。エリートとは一線を画した、泥臭い生き方で、再びスポットライトを浴びる立場にたどり着いた。

 レンジャーズ時代の11年は、Wシリーズの登録メンバーから外れた。上原自身は「過去のこと」と言うものの、当時の無力感は忘れていない。「行けるところまで行くしかない。アクセルを踏みっぱなしでやるしかないです」。昨オフ、レ軍入りを決断した理由のひとつが、「世界一に一番近い地区だから」。あと4勝と迫った頂点まで、上原が手綱を緩めることはない。【四竃衛、水次祥子】

 ◆ア・リーグ優勝決定シリーズMVP

 上原は同シリーズで日本人初のMVP選出。救援投手では03年のリベラ(ヤンキース)以来。打者に比べ投手の受賞は少なく、この10年では07年ベケット(レッドソックス)、08年ガーザ(レイズ)、09年サバシア(ヤンキース)の3人。