【オーランド(米フロリダ州)14日(日本時間15日)=佐藤直子通信員】大リーグ機構(MLB)のロバート・マンフレッド最高執行責任者(COO=55)は、日米間で協議されていたポスティングシステム(入札制度)の新制度案を取り下げ、修正案を提出すると発表した。日本野球機構(NPB)の対応の遅さに業を煮やしたかたちで、メジャー挑戦が有力視される楽天田中将大投手(25)の去就に大きな影響を与えることになりそうだ。

 MLBがしびれを切らした。オーナー会議が行われた直後の記者会見で、マンフレッドCOOは「今日の会議で修正案を提出することが決まった。日本側の返答に時間がかかりすぎている。情勢は変わった」と断固とした口調で言った。日米間でほぼ合意していた新制度の白紙撤回宣言。まさかの急展開を見せた。

 日本では、前日14日に労組プロ野球選手会(嶋基宏選手会長=楽天)が2年限定での受諾を発表し、その間に現在9年間の海外フリーエージェント(FA)権の短縮を含めた制度改革を求めたばかり。NPBは18日の実行委員会で対応を協議する予定だったが、日米交渉は振り出しに戻る形となった。

 予測していなかった発言に、米メディアもぼうぜんとなった。同COOによれば、2週間前、MLBがNPBに新制度を提案した際、「早期返答がなければ風向きは変わる」と勧告していたという。だが、NPBは選手会との意思統一を図れず。オーナー会議が行われた米東部時間14日午前中までに正式な返答がなかった。

 MLBの強硬姿勢は、単なる脅しではなさそうだ。楽天田中の獲得をもくろみ、新制度の合意を待ちわびる資金力豊富な球団は少数派。恩恵を受けるのは高額な入札額を手に入れる日本の球団だけで入札制度自体の廃止を求める意見も多い。同COOは「日本人選手がフリーエージェント(FA)権を獲得した後にしかメジャー移籍できないというのであれば、30球団にはその方式を受け入れる準備はある」とまで言った。

 入札額をできるだけ抑えたいというのがMLBの意向だが、米メディアが田中の最高入札額を7500万ドル(約75億円)と報じるなど高騰は避けられない状況だ。同COOも「サイレントオークション形式のため、入札額が高騰し、入札に参加できる球団が限られてしまう」と問題提起した。数週間後に提出するという修正案は、MLB側の主張を大きく盛り込んだ、日本側に不利なものに変更される可能性もある。

 30日間の交渉期間があるため、過去、入札制度を利用して米移籍した選手のほとんどが年内に申請手続きを済ませている。つまり、12月中に新制度を締結できなければ、田中の今オフのメジャー移籍は現実的に難しくなる。日本側は選手会の反発により足並みがそろわず。米球界もまた、この日のオーナー会議で入札金をぜいたく税の課税対象にすべきかどうかの議論を巡り紛糾するなど、一枚岩とは言えない。“制度消滅”という最悪の結末を迎える可能性も出てきた。