<ヤンキース5-2ブルージェイズ>◇21日(日本時間22日)◇ヤンキースタジアム

 75日ぶりの復帰登板を白星で飾った。右肘痛で故障者リスト(DL)入りしていたヤンキース田中将大投手(25)がブルージェイズ戦に先発。7月8日以来となるメジャーのマウンドで、5回1/3を5安打1失点無四球と好投した。故障明けを感じさせないスプリットなどで4三振を奪うなど、最速も93マイル(約150キロ)を計測。来季に向けて期待が膨らむ13勝目(4敗)を挙げた。

 腕を強く振る恐怖感は、回を重ねるごとに、消え去っていた。5回1死、8番ゴーインズへの5球目。ヤンキース田中がカウント2-2から仕留めに行った速球は、外角へ外れてボールと判定された。それでも、最速の93マイル(約150キロ)を計測。打者をねじ伏せようとする感覚は、指先が覚えていた。

 終わってみれば、75日ぶりのメジャーで6回途中まで1失点。自分には厳しい田中が試合後、穏やかな口調で復帰登板を振り返った。「あれだけ制球がある程度まとまっていたのは良かったと思います。まずはホッとしている部分はあります」。残った数字以上に、メジャーの舞台で無事に投げられた事実が、胸の奥底に潜んでいた不安をぬぐい去った。

 求めていたのは、チームと個の両面だった。球数が70球前後に限定される中、結果を残すことは体調が万全であっても簡単ではなかった。手探りでスタートした初回、速球系を連打されて1点を先制されると、徐々に戦う姿勢を思い起こした。真っ向勝負だけで通用する世界ではない。これまで以上にカーブを見せ球に使い、カウントを整えた。宝刀スプリットは少なめでも時速84マイル(約135キロ)~90マイル(約145キロ)と球速差をつける工夫を凝らした。「肘の状態を確認しながら、チームの勝利を引き寄せられるような投球をしたいと思っていた。そこはクリアできたのかなと思います」。

 7月10日に「右肘靱帯(じんたい)部分断裂」と診断されて以来、常に「トミー・ジョン手術」の可能性がつきまとった。一部に今季の登板回避や早期手術を予想する声がある一方で、注射療法後に投球を再開した途端、9月上旬の復帰を求める待望論も聞こえてきた。だが、田中の姿勢はブレなかった。リハビリメニューをこなしながら、8月下旬には首脳陣と話し合い、自らの意思を貫き、1週間の「ペースダウン期間」を設けた。今季中に復帰し、感触をつかんでおけば、オフへの課題も見つかる。さらに結果が伴えば、今後の野球人生への起点にもなる。「ずっと継続して続けていくものなので、1試合投げただけで判断するのはちょっと難しいです」。慎重な姿勢は変わらなくとも、その明るい表情こそ手応えの表れだった。

 ただ、本当に重要なのは今後のトレーニングや体調ケア。「より良くなるようにと思っていつもやっています。あの時に戻りたいとかはないです」。ヤ軍のエースとして、今後も長く、丈夫な体で投げ抜くうえで、ひとつの区切りとなる復活登板だった。【四竈衛、水次祥子】