巨人と阪神は1リーグ時代、15度のうち13度(巨人9、阪神4)どちらかが優勝している。プロ野球草創期から他球団を引っ張る強豪として君臨したからこそ「伝統の一戦」と呼ばれるようになったのだろうが、選手個人によるライバル対決があったことも、盛り上がる要因となったはずだ。

 「沢村対景浦」、「川上対藤村」、「長嶋対村山」、「王対江夏」、「江川対掛布」。エース対打者もあれば、打者同士もある。これが80年代の江川対掛布を最後に、いまひとつピンと来ない。比較的近いところでは「松井対遠山」も、「清原対藪」も、「ライバル対決」というには、どこか違和感がぬぐえない。球団を一身に背負ったスーパースター同士が「伝統の一戦だけは負けられない」とぶつかり合う。あるいはしのぎを削る姿を見てみたい。

 昔の新聞を読むと、後に語り継がれている印象と若干違うことがある。今回は「天覧試合」の翌日の紙面で、サヨナラ本塁打がファウルかどうかは話題になっていない。村山が「あきらめの微笑」をしているような表情の写真さえ掲載されている。ただし、翌々日の紙面では苅田久徳氏が長嶋との対談で「当たった瞬間入ったと思ったね。ファウルかどうかで‥」と問うと、長嶋は「入ったとは思いました。うれしかったですよ」と答えている。やはり、左翼ポールの近くには飛んだのだろう。

 村山は監督になっても「ファウルだ」と主張していた。しかし、もしかしたら「伝統の一戦を盛り上げるために言っていたのかな」とも思えてきた。そうだとしたら、マスコミの一員としてだけでなく、野球ファンの1人として、うれしい。【斎藤直樹】

※「野球の国から 2015」<シリーズ13>「1000勝記念 GT名勝負」取材メモ