9回の逆転劇を見ながら、ソフトバンク二保旭投手(24)は思った。「このままいけば…」。待ち焦がれた瞬間だった。サファテから、ウイニングボールを受け取った。「やっとだな、という気持ちが最初に出た。野球をやってきてよかった。やっとスタートが切れた」。2点を追う8回裏。打者3人で抑えて、流れを引き寄せた。間違いなく、殊勲の1人。プロ初勝利の味をじっくりとかみしめた。

 プロ7年目の結実だった。08年に育成2位で入団。12年に支配下登録を勝ち取ったが、そこから先が苦難の道のりだった。昨年は2軍で結果を残しても、1軍マウンドで登板する機会はなかった。「うまくいかず、腐りかけたこともあった」。乗り越えられたのは、家族の力だ。12年に結婚し、2人の子どもに恵まれた。「自分だけじゃない。野球をやめたら、何も残らない。続けたい気持ちでガムシャラにやった」。

 吹っ切った姿が工藤監督の目に留まった。マウンド度胸を評価し、開幕メンバーに組み込んだ。今季は11試合の登板で2失点だけ。指揮官は「彼にとっても、格別だと思う。勝利の味を忘れないで、これからたくさん味わってほしい」と秘蔵っ子の働きに満面の笑みを浮かべた。【田口真一郎】

 ▼08年育成ドラフト2位入団のソフトバンク二保がプロ初勝利。育成ドラフト入団選手の勝利は、昨年9月3日中日戦の徳山(ヤクルト)以来で13人目。ソフトバンクでは山田大樹、千賀滉大、飯田優也に次ぐ4人目で、球団別では巨人の3人を抜いて最多。