秘めた思いが爆発した。巨人から新加入した日本ハム矢野謙次外野手(34)がDeNA3回戦の6回、移籍後初本塁打となる決勝の逆転1号3ランを放った。お立ち台で思わず感極まった新戦力の劇的な1発で、チームは今季初の本拠地での同一カード3連勝。貯金も今季最多の「14」とし、明日16日阪神戦(甲子園)に引き分け以上で交流戦1位が決まる。

 夢のような現実を前にして、不意に過去がフラッシュバックした。ヒーローインタビューの冒頭。矢野が声を詰まらせた。「今まで(巨人時代)だったら、あそこの打席に立っていなかったと思うんですよね…絶対に代打を出されて代えられていたと思うんですよ。あそこで(打席に)行かせてもらえて、絶対に打ってやろうと。マジ気合入りました」。巨大戦力の中で、じくじたる思いを何度も経験した。請われて加入した新天地で、積み重なった悔しさをぶつけた。

 劇的な1発が飛び出したのは1点を追う6回だ。1死一、二塁の好機。代打を送られる気配もなく、打席へ向かった。初球の131キロのスライダーをジャストミート。弾丸ライナーが左翼席へ突き刺さった。移籍後初本塁打が決勝の逆転3ラン。「(バットの)真芯で、サイコーでした」。打席に立てる喜びを、最高の形で表現した。

 野球人生の転機は、充実の日々の始まりだった。「この3日間は子どものように野球をやるのが、うれしくて楽しくて」と、無邪気な笑みがはじけた。この日は先発マウンドに大谷。「自分と息子と2人で、あこがれのピッチャーだった。間近で見られて、うれしかった。すごいピッチャーでした」と野球少年のように目を輝かせ、親子であこがれの右腕に8勝目をプレゼントした。

 栗山監督も感慨に浸った。「1発で北海道のファンを、わしづかみにしたのだからすごい。ケンジ、良かったなぁと思った」と、一気にはじけた新戦力に目を細めた。デビュー戦から3試合連続安打、2度のお立ち台に「出来すぎです」。毎日声をかけてくれるチームメートらに感謝しながら、最後は右手でマイクを握って「ファイターズ サイコー!」。日本ハム矢野が最高の船出を飾った。【木下大輔】

 ▼矢野の本塁打は13年8月22日ヤクルト戦以来。勝利打点付きの1発は12年10月7日DeNA戦のサヨナラ本塁打以来となった。本塁打は通算28本目だが、逆転の場面で打ったのは07年5月31日ソフトバンク戦以来、8年ぶり2本目。前回はセ・リーグ史上3人目となる代打の代打で放った逆転満塁弾だった。