阪神マット・マートン外野手(33)がプロ野球最速となる、入団から6年目での通算1000安打を達成した。1回1死三塁。広島福井のフォークを捉えると、前進守備の二塁菊池を寄せ付けない打球が中前に転がった。「打てるボールを逃さずに打てた」と語る先制の適時打が、偉業達成を一段と引き立てた。

 マートン 来日したときは6年後の想像なんてできなかった。たくさん日本に来て、結果を出せずに帰った人がいる。自分を使い続けてくれた和田監督、チームメート、ファンのみなさん、家族、神様のおかげです。

 一塁ベース上では右手に花束を持ち、左手を挙げて大歓声に応えた。何度も繰り返したのは周囲への感謝。だが、相手投手の特徴を書き込んだ「マートンノート」をはじめ、自らの努力でここまで来た。日本時間8月13日にマリナーズの岩隈がノーヒットノーランを達成すると、翌14日には神宮での試合前に思い出話を始めた。

 「シュートをセンターの右に打ったんだ。スプリットとコントロールが良かったのを覚えているよ」

 来日1年目の10年5月15日楽天戦(甲子園)。ほとんどが初顔合わせの時期に、マートンは1度だけ岩隈と対戦している。6年越しの不意な質問にも、岩隈の特徴をスラスラと語り、3回の右前打を思い返した。この「記憶力」は簡単にまねできるものではない。

 3番に入っての猛打賞を和田監督も「ここ数年のいいときのマートンの打席だった」とたたえた。1点リードの7回には、2死満塁で3点二塁打をマーク。「日本に来ることさえ想像していなかった」と話す男は、華々しく日本プロ野球史に足跡を刻んだ。【松本航】