1つの判定がプロ野球界トップの謝罪に発展した。日本野球機構(NPB)は14日、12日の阪神-広島20回戦(甲子園)でビデオ判定の結果、三塁打と判定された打球が、本塁打の誤りだったと発表。誤審と認めた。2010年のビデオ判定導入後、NPBが誤審を認めるのは初めて。熊崎勝彦コミッショナー(73)が陳謝する異例の事態となった。

 熊崎コミッショナーが深々と頭を下げた。都内で開かれたオーナー会議後の会見。「私としては、断じてあってはならないことであると考えております。多くの野球ファンの皆さん、球団の関係者、もちろん選手、コーチ、監督の皆さんに対し、深く、深くおわび申し上げざるを得ない」と謝罪した。

 12日に行われた阪神-広島20回戦の延長12回。広島田中が放った打球はフェンスオーバーし、侵入防止柵に当たった後にグラウンドに戻ってきたように見えたが、ビデオ判定の結果、インプレーで三塁打とジャッジされた。この判定につき、広島サイドはセ・リーグに対し口頭で再検証を要望。13日までに当該試合の審判団、友寄審判部長らが映像を再確認した結果を受け、杵渕セ・リーグ統括は「打球はフェンスを越えているものという判断に至りました」と、誤審を認めた。

 判定を誤った理由について同統括は、「甲子園球場のフェンスの構造は認識していたものの、フェンスギリギリの打球でスタンドまで到達しておらず、打球が大きく跳ね返ったため、フェンスかネットの上段に当たったものと思い込んでしまった。まさか後ろの(侵入防止柵の)ワイヤに当たって(打球が)跳ね返るとは想像もせず、その観点からビデオ検証してしまった」と説明。審判団の先入観が誤審につながったとの見解を示した。

 今後は、今回の経緯をあらためて検証した上で、(1)ビデオ判定は思い込みを排除して行うことを全審判員に徹底(2)球場施設に判定に支障の出る箇所がないか再確認し、再発防止に努める。また成績、記録の訂正は行わず、「試合も成立していることもあり、記録の訂正は難しい。現状通り、ということで進めさせていただきたい」とした。

 熊崎コミッショナーは「このようなことは2度とあってはいけない。スピード感を持って対処するように指示しました。(再発防止策の徹底が)ファンの思いをくむことになると思う」と力を込めた。前代未聞の“誤審認定”とコミッショナー謝罪。ファンの信頼回復には、再発防止の徹底に努めるしかない。【佐竹実】

 ◆田中の打球VTR 12日の阪神-広島20回戦。2-2で迎えた延長12回1死、広島田中の打球は中堅のフェンスを越え、観客の侵入防止のために備え付けられている「忍び返し」に当たってグラウンドに戻ったように見えた。忍び返しに当たれば本塁打だが、ビデオ判定の結果はフェンスの手前にあるラバーとフェンスの間に当たったとして「三塁打」に。12日に審判団は侵入防止柵は確認できず、存在の認識もなかったとしていたが、13日になって東審判は「(フェンス付近の)構造自体は頭に入っていた」とした。