男がほれる男。ホンダから今季限りで現役引退したミスター社会人・西郷泰之選手(43)とは、そういう選手なんだと思う。

 11月下旬。今回の連載の準備として、西武渡辺直人内野手(35)に話しを聞きに行った。その日、都内でのパーティーに出席する渡辺は、控室にいた。アポなしだったが、球団広報に、取材の意図を説明すると、渡辺はすぐさま控室から出てきた。開口一番「西郷さんを取り上げるのは、いい企画ですね。ぜひ、大きく記事にしてください」と言った。

 渡辺が城西大から三菱ふそう川崎に入社したのが2003年。その時、西郷はすでに社会人野球を代表する強打者だった。

 渡辺は一気に語った。「僕が入社したとき、西郷さんは五輪も出ていたし、実績もあったし、30歳もすぎていたんじゃないかな。すでに大ベテランだったんです。すでに出来上がった選手という印象ですよね。でも、練習後の自主練習、西郷さんは、若手に交じってティーやったり、フリーやったり、素振りしたり、やるんです。僕らは『帰ってくださいよ。僕らも帰れないじゃないですか』って冗談で言うんです。でも『この時間が一番伸びるんだよね。自分で考えて練習できるから』と帰ってくれないんです」。リスペクトがほとばしった。

 忘れられない思い出として、初めての都市対抗を挙げた。「1回戦、西郷さんの第1打席です。たしか、セカンドゴロだったんです。アウトになったんですが、ヘッドスライディングしたんです。西郷さんが。ジャパンの4番を打った人がですよ。入社1年目で、その姿を見て、一発で、三菱ふそう川崎のファンになりました。ふそうの一員であることを、ふそうでプレーすることを誇りに思うようになりました」。語るまなざしが、熱かった。

 何を学んだ? そう問うと、渡辺は、即答した。

 「いくつになっても野球を楽しむ気持ち」

 「だから、僕は野球が好きだし、今でも野球が楽しいです。もちろん、苦しいことも多いですけどね。楽しいです」。渡辺は来季でプロ10年目、36歳になるシーズンを迎える。西郷に学んだ野球への姿勢を、きっと西武の後輩に見せてくれるはずだ。【金子航】