昨季限りで現役を引退し、日刊スポーツ評論家に転身した前中日の和田一浩氏(43)と、阪神金本知憲監督(47)のスペシャル対談が実現した。本紙デビューとなる和田氏は、東北福祉大で3学年上に当たる金本監督にも遠慮せずに斬り込んだ。毎年、優勝争いに加わりながら自滅する阪神の勝負弱さを指摘。再建に向けて突き進む新監督の方針やキャンプでの手応えをチェックした。

 和田氏(以下、和田) 今日は日刊スポーツの初仕事です。よろしくお願いします!

 金本監督(以下、金本) おう! 小遣い稼ぎか。全然、どうぞ。

 和田 金本監督は、ボクが大学1年のときの4年生。雰囲気とはちょっと違って優しい先輩でした。

 金本 ワッハッハ、そうだろ。俺は優しかっただろ。

 和田 1年生は外出の許可を4年生の主力選手にもらうんですが、いつも金本監督にもらいにいってました。「金本さんに許可をもらいました」と言うと、他の人は何も言わないですから。

 金本 ヘッヘッヘ、俺も覚えてるよ。お前、1年で入ってきて、いきなり最初の試合で右中間かなんかにツーベース打ったやろ。

 和田 えっ、すいません、全然、覚えてないです。ボクが覚えているのは、金本監督がリーグ戦で相手の投手の球が遅すぎて、いきなりマスコットバットで打席に入ったことです。すごく印象に残っています。そんな先輩が監督になられて…。プレーヤーとしてのイメージはあるんですが、まだ監督としてのイメージが湧かないんです。どういうイメージで野球を進めるんですか?

 金本 イメージはねぇ。うーん、はっきり言えるのは、まず、雰囲気を変えたいってこと。勝つときは勝つ、負けるときは負けるって流れに任せて淡々とやるんじゃなく、流れが悪いときにグッといけるような。見ている人が『執念あるな、このチーム』って思えるようにしたい。

 和田 そういうのもあって、チームリーダーの鳥谷には厳しい発言が多いんですか? おとなしいタイプですから。

 金本 いや、厳しくないよ。彼の能力を見たときに、もっとやれると思っているから。彼自身が一番、物足りないと思っているはず。

 和田 今日、初めてキャンプで彼のバッティング練習を見たんですが、去年の試合で見た姿と全然違う。いいバッティングしていましたね。

 金本 うん、これはチーム全体に言ってることなんだけど、とにかく強く振ること。ここ数年、伝統的にというか、速いストレートに力負けしている。鳥谷も甲子園が広いといっても、ホームラン6本じゃね。もっと打てる。身体能力をみても、普通の35歳じゃない。フルイニング出場はこだわっていないけど、連続出場は応援したい。

 和田 今日のバッティングなら、30本は打てるんじゃないですか。でも2番の構想もあるって報道されていましたが? 

 金本 可能性もあるって話。攻撃的な2番を置きたいから。1番が倒れれば2番が打たなきゃいけない。打率が低くてバントがうまい選手よりは、打てる選手を使いたい。

 和田 理想なんでしょうが、今の阪神を見ると駒不足に思えるんですが。

 金本 入れ替えの時期だからねぇ。鳥谷の2番で周りがカバーできればいいんだけど。それが前提。3番打つヤツがいないんじゃ無理だよな。

 和田 4番はゴメスですか?

 金本 いればいいけど、残念ながらいない。現状はゴメスでしょう。福留の4番もあるけど、3番か5番に置きたいし、年齢を考えても。

 和田 打順を考えてオーダー書くとき、どこを最初に決めますか?

 金本 うーん、まだ経験ないけぇ、どうなるんやろうねぇ。1番から順番に埋めていくのか、8番からになるのか(笑い)。8番は一番打てないキャッチャーでいこうとか。自分でも分からんねぇ。

 和田 1軍にはいませんが、ドラフト1位の高山(俊、22=明大)が出てくるといいですね。甲子園の外野は広いですし、センターにはまってくれると大きい。

 金本 手術明けやし、100%じゃないから。センターには、そんなにこだわってないよ。ウチには大和も江越もいる。まぁ、彼らはレギュラーではないけど。高山は先日、野外で初めて打ったらしいけど、相当、いいらしいよ。

 和田 若い選手も体が大きくなっていますね。とんでもない体をしている。ウエートを重視させた効果が出ていますね。

 金本 大きくなってるでしょ。昨年の秋からのテーマ。やっぱりバッティングって、理想は完璧な形のスイングをして、完璧なタイミングで、真っ芯で捉える。もちろん、そこを求めるけど、実際は少し泳がされたり、詰まったりするでしょ。そのときに詰まっても押し込めるパワーとか、泳がされてバットの先でもグッとヘッドを返せる強さとか。それぞれ体重によって違うけど、トレーナーには言って、ノルマを与えて個別に指示を出した。やってない選手もいるけどね。

 和田 ボクも若いときにウエートをやった時期がありました。ベンチプレスで120キロぐらい上がったかなぁ。でも、それ以上、どんなにやっても上がらなくなった。もっと上げるには体重を増やさないといけないからやめたんだけど、それからは重さ重視ではなく、ひねりながら上げるとかのウエートはやっていました。1発を打つのなら、ある程度のパワーは絶対に必要です。特に甲子園は広いし、浜風で左打者は特にボールが飛ばない。

 金本 ここしばらくタイガースというチームには大砲がいないから。球場が広いから小技でいくのか、そこを突き破っていくのか。突き破ってチャレンジしてほしい。生え抜きの選手では、掛布さん、岡田さん以来、30本塁打以上打った選手がいない。俺は生え抜きじゃない。これはなかなかの異常現象。

 和田 生え抜きじゃない監督が生え抜き選手の育成にかける気持ちは分かりました。選手を育てて優勝するのが目標でしょうが、去年も感じたんですが、阪神は強い強いといわれながらも勝手にこけて落ちていくイメージ。去年、優勝争いしても、阪神の優勝はないだろうと思ってしまうんですよね。

 金本 精神的、技術的、体力的な底力がないんだよ。俺自身、現役時代にまだ1・5ゲーム差なのに空気にのまれたことがあった。土壇場のスタミナがなかった。特に投手陣だけど、自分自身の反省もあるんだよ。

 和田 そこを踏まえての“超変革”なんでしょう。頑張ってください!【取材、構成=小島信行、松井清員】

 ◆和田一浩(わだ・かずひろ)1972年(昭47)6月19日生まれ。岐阜県出身。県岐阜商2年の春夏に甲子園出場。東北福祉大では最優秀選手2度。神戸製鋼を経て96年ドラフト4位で西武入団。02年捕手から外野手にコンバート。05年首位打者、最多安打。07年オフにFAで中日移籍。10年セ・リーグ最年長MVP、最高出塁率。15年2000安打を達成し、引退。ベストナイン6度。通算2050安打、319本塁打、1081打点、打率3割3厘。右投げ右打ち。