わずかな差が、分水嶺(れい)となった。痛感しているのが巨人長野久義外野手(31)だっただろう。

 2回1死二塁。598日ぶりに1軍マウンドに上がった先発江柄子は初回に続き、得点圏に身を置かれていた。だが8番石原を中飛に打ち取り、9番野村を迎える。投手相手にあと1アウト。切り抜けられる。機運が高まり、浅い飛球がライトの前に上がった。3度、ゴールデングラブ賞を受賞した名手長野が前進する。スライディングキャッチを試みたが、打球の落下点が胸付近に来たために、捕球しきれずにこぼしてしまった。

 4回はデジャブのようだった。2死一、三塁。野村の打球は再びフラフラとライト方向に上がった。長野が突っ込み、今度はランニングキャッチを選択したが、グラブの先に当たるも捕球できなかった。「あ~」というため息がドーム内をつつんだ。

 記録はともに安打。だが長野の守備力なら、と声が上がった。高橋監督は「あれぐらいは取ってあげてほしい。(野手の)間に飛んで、打たれた感じではない」と指摘した。村田真ヘッドコーチも「取らなあかん。長野にも言ったけどね。執念が足りなかったように思えた。グラブに当たっているわけだしね。江柄子の人生が変わってしまう」と強調した。

 長野も素直に非を認めた。「江柄子が久々の先発で取ってあげないといけない。2つ取っていれば、点は入っていなかった。自分のミス。イージーな打球で取ってあげないと」。後輩を助けてあげられず、責任を感じた。

 長野久義という選手は、たぎるような勝利への欲求が奥底に流れている。4月28日の阪神戦では三塁への珍しいヘッドスライディンで執念を垣間見せた。広島との今連戦は1勝1敗となり、首位から1日で陥落した。首位攻防戦の分け目の戦いで、長野が執念を燃やす。