プレーバック日刊スポーツ! 過去の5月26日付紙面を振り返ります。2009年の1面(東京版)は横浜工藤公康投手の46歳での勝利でした。

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<横浜6-5楽天>◇2009年5月25日◇横浜

 ハマのおじさんが歴史的勝利を挙げた。横浜の工藤公康投手(46)が楽天2回戦(横浜)で9回の1イニングを無失点に抑えて逆転サヨナラ勝ちを呼び込み、07年9月26日阪神戦以来607日ぶりの勝利をマークした。46歳以上の勝利は50年5月の浜崎真二(阪急)以来59年ぶり2人目で、工藤自身が持つセ・リーグ最高齢勝利を更新した。40歳以上通算37勝で史上最多とし、通算223勝は村山実(阪神)を抜いて単独13位になった。

 スタンドはこの男の登場を待ちわびていた。1点を追う9回、工藤の名がコールされると、内野席前方フェンス際に、観客が押し寄せた。リリーフカーでマウンドに向かう男に、無数の手が伸びた。その思いにこたえないわけにはいかない。工藤の闘志が一気に燃え上がった。

 代打宮出を三ゴロに仕留め、好調の小坂も力ない遊直に抑えた。最高の見せ場はそこからだった。4割打者の草野を力で抑えた。初球、142キロの速球でストライク。2球目は134キロのカットボールで追い込んだ。最後は高めのつり球。141キロの速球で3球三振にねじ伏せた。「振ってくると思わなかった。反応を見て、次の球を考えていた」。手を出してくれば内角直球、無反応なら外のスライダーかカーブで勝負するつもりだった。工藤の気迫と冷静さが生んだ余裕が、草野をのみ込んだ。

 「本来はリードの場面で使う投手だが、あえていった」という田代監督代行の期待に応える3者凡退の快投が、一気に球場のムードを変えた。サヨナラ打を放ったのは内川だが、その原動力となったのは、工藤だった。607日ぶり、セ・リーグ最年長、40歳以上で史上最多の37勝目。村山を超える単独13位の223勝。記録ずくめの1勝にも「ヒーローと言われても困る。ヒーローじゃないですから。勝利? ごほうびということで、ありがとうございます」と謙虚だった。

 先発からリリーフに転向するため2軍で調整していた時、工藤は原点に返った。登板機会はなかったが、山形への遠征に帯同した際、新幹線のホームで自由席を待ったという。これまではグリーン車が当たり前だった。そして工藤はそれを「勉強だよ」と目を輝かせながら雅子夫人に話した。

 「今までの気持ちと違って、自分の頑張りだけでなく周りに感謝しながらやっていると思います。本人も『(2軍は)こんなんだったっけ』と人のありがたみを感じて、この年だからわかる気持ちがあると思う。勝ち星といっても今までの(先発の)勝ちとは違うと思います」と、一番近くで支える雅子夫人は言う。

 この日の工藤が一番喜んだのも、自分の白星ではなく、チームの勝利だった。「今はリリーフ投手なので勝ち星はおまけです。次につないでいくだけ。欲をかくとろくなことがない。自分の仕事をするだけ」。昨季は24年ぶりの未勝利に終わった。だが今季は「25年ぶり」というリリーフで、その大変さ、野球の深さを身に染みて知らされた。横浜は、まだまだ、この男を必要としている。

 ▼46歳0カ月の工藤が07年9月26日阪神戦以来の勝利投手。46歳以上で白星は、50年5月7日浜崎(阪急)が48歳4カ月で記録して以来、59年ぶり。浜崎は46歳以上で4勝しており、工藤の46歳0カ月は歴代5位の年長勝利で、自らの持つセ・リーグ最年長勝利記録を更新した。これで工藤は03年5月5日に40歳の誕生日を迎えてから37勝目。40代で37勝は若林(毎日)の36勝を抜く最多勝利となった。また、工藤は通算223勝となり、村山(阪神)を抜いて単独13位に進出。223勝のうち先発で216勝を記録しており、リリーフでの白星は西武時代の91年10月5日ダイエー戦以来、18年ぶり7勝目。この日は8球で、工藤が10球未満で白星はプロ入り初めてだ。

 ◆大リーグの年長勝利 歴代1位は32年に49歳2カ月で勝利投手になったジャック・クィン(ドジャース)。ニグロ(黒人)リーグ伝説の投手で、史上最高齢の42歳で初昇格したサッチェル・ペイジは65年、アスレチックスで1試合限定の現役復帰。59歳2カ月18日で先発し3回を無失点。これは野手を含めても最年長の出場記録。横浜工藤を上回る年長勝利はメジャーでも過去9人。47歳以上の勝利は4人だけ。今年は46歳6カ月の左腕モイヤー(フィリーズ)が3勝(4敗)を挙げる。殿堂入りしたP・ニークロ(元ブレーブス)は43歳シーズンから5年連続の2ケタ勝利を挙げた。