浮き沈みを経て、悟りを開いた左腕に幸運の女神が舞い降りた。2点を追う7回2死一、三塁。楽天2番手の金刃憲人投手(32)がマウンドへ。初球のカットボール1球で打ち取りベンチへ戻ると、その裏に味方が3得点で大逆転。11日広島戦に続く2度目の1球勝利は、プロ野球史上初の大記録となった。「持ってる? 持ってないですよ! 本当は3球投げて三振取って、ガッツポーズしたいっすよ」。とはいえ、ソフトバンク戦の連敗を7で止める価値ある1球になった。

 勝利後、照れながらスタンドへ掲げた帽子のつばの裏には「てきと~に」と今季のテーマが書き込まれている。「いいかげんじゃなくて、適度にって意味ですよ。肩の力が入りすぎたらダメ。気楽に、思い切っていかないと。『てきとー』じゃなく『てきと~』なのがポイントですからね」。

 大胆な思い切りの末に今がある。キャンプ中ではなく、今季初登板の4月5日から3年ぶりにサイドスローに戻した。「賭けだったんですけど、このままじゃダメだと思ったので」。06年の希望入団枠で巨人に入団し、1軍登板ゼロの12年にトレードで楽天へ。日本一の13年は39試合に登板したが、昨年は19試合にとどまっていた。再び存在感を示すために、決断した。

 「てきと~」な2勝目の結果、ウイニングボールはいつも通り三塁側スタンドへ投げ入れてしまった。「史上初って、知らなかったんで…」。最後は苦笑い。記録にも記憶にも残る1勝になった。【松本岳志】

 ▼1球勝利=金刃(楽天) 25日のソフトバンク10回戦(コボスタ宮城)で記録。金刃自身が今年の6月11日広島戦で記録して以来プロ野球40度目(39人)。1球敗戦を2度記録した投手は84、89年森(オリックス)がいるが、1球勝利を2度は史上初。