プレーバック日刊スポーツ! 過去の9月27日付紙面を振り返ります。2013年の1面(東京版)はプロ野球楽天のパ・リーグ初優勝でした。

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<西武3-4楽天>◇2013年9月26日◇西武ドーム

 マー君が胴上げ投手になった。楽天が球団創設9年目で初となるリーグ優勝を遂げた。先に2位ロッテが敗れ、優勝マジック「1」になって迎えた4-3の9回裏、田中将大投手(24)が4番手で登板。1死二、三塁のピンチを招いたが、後続を断ち、チームメートとマウンドで抱き合った。7年目の今季は、不滅の開幕22連勝中。優勝の最大の立役者は「有言実行」でリーグの頂点に上り詰めた。クライマックスシリーズ(CS)、日本シリーズも勝ち、悲願の日本一を目指す。

 田中は小走りでマウンドへ向かった。総立ちのファンに、拍手で送られた。ちょうどその時、札幌でロッテが敗れた。勝てば優勝が決まるマウンド。舞台は整った。1死二、三塁を招いたが、最後は西武浅村を153キロで空振り三振。「よっしゃー!!」。くるりと中堅方向に振り向き、万歳して喜びを爆発させた。真っ先に捕手の嶋に抱きつかれた。松井、藤田、銀次、マギーら内野陣、ブルペンからも、ベンチからも、走ってきた。あっという間に、大きな人のかたまりができた。

 田中 引いたら負けだと思っていました。だから真っすぐを続けました。東北への思いもありました。シーズンが始まる前は、誰も優勝なんて思っていなかったと思う。いい意味で期待を裏切れてうれしいです。

 22勝0敗。チーム貯金26のほとんどを1人で稼いだ。この活躍がなければ優勝には届かなかっただろう。ただ、田中は投げるだけでチームを引っ張ったわけではない。彼の口から発する言葉も、大きな力になった。

 2月の久米島キャンプ。今季の目標などを語る「声だし」で、優勝を宣言した。「今年はWBCで世界一、シーズンで日本一、この2つの頂点を目指して、そのために1年間フル回転していきたい」。WBCに敗れて帰国すると、慰労のため食事に誘ってくれた小山伸、青山ら先輩の前で新たな目標を明言した。「世界一にはなれなかったけど、次は日本一です」。だれもが心中にはある思いだが、田中は必ず口に出す。男は黙って…は信条ではない。

 「言わなきゃ、始まらないじゃないですか。言うことで意識する。僕は、CS狙いは嫌なんです。3位でCSに行って、そこから日本シリーズ!? そんなチームは勝てませんよ。リーグ優勝して日本一。リーグ優勝する強いチームじゃないといけないんです」

 昨季4位。球団創設から8年間でAクラスは2位が1度だけ。勝ち慣れていない新球団だけに、優勝、日本一といった目標を口に出しにくい。しかし、その遠慮が気後れにつながる。田中は目標は堂々と口にした。そして、それを仲間にも求めた。

 今年の交流戦中、2歳年上の美馬が、慣れないビジター球場のマウンドが合わないと発言した。正直に感想を述べたのだが、翌日の報道で知った田中は、美馬の元へ行った。「美馬さん、弱気発言じゃないですか」。相手に弱みを知られる。何より口に出すことで、自分の心に弱さが生まれる。田中は、口から発する言葉を大切にしてきた。

 「いつも本気です。優勝しないなんて思ってシーズンに入る人はいないですからね」

 優勝の歓喜に酔いしれた後、やはり田中は新たな目標を口にした。

 田中 もちろん、これで終わりではない。これからが本当の勝負です。

 この時ばかりは笑みが消え、するどい表情になった。有言実行。田中の言葉は、きっと現実になる。そう思える力がみなぎっている。

※記録や表記は当時のもの