キャンプ序盤だった。阪神の先発、救援で活躍し、92年に開幕投手を務めたアンダースローの葛西稔(現阪神スカウト)がボソッと言う。「下手投げはヘタ投げだから」。この投げ方をする人にしか分からない実感が込められていた。投手は本格派、技巧派などと色分けされるが、下から投げる「変則派」には、どこかアウトローの匂いがする。

 「2年目のジンクス」と書けば本人にも、周囲にも「実績を残していない」と一蹴されるだろう。昨季、新人で4勝を挙げた青柳晃洋は開幕ローテーションを争う立場だが、下手投げとしての難しさに直面しているように映る。今季2度目の登板だった13日DeNA戦は2回2失点。「実力不足」と厳しい表情だった。金村投手コーチも「まだ球が来ていないし、打者にウワッという感じが出てきていない」と指摘していた。

 2年目だが、大きなジレンマと戦っている。短所の制球難を克服するほど、長所が消えてしまうではないかという難しさである。昨年12月、台湾でのアジア・ウインターリーグで登板を視察した掛布2軍監督も「四球が減る良い部分もあるけど、打者からすると暴れない球は怖くない。左打者に胸元に起こす球を投げきれないと苦労する」と指摘した。打者の目先を変えるのが生命線になる投げ方だけに、重要なポイントになる。

 下手投げはかつて、コンプレックスだった。神奈川出身で松坂大輔に憧れていた。「ずっといやで、上から投げたかった」。小学6年から始めた投げ方だ。周囲にはバカにするようにマネもされたという。中学に入り、1度は上から投げたが肘を痛めた。打者が怖がるのを見て、自信を持つようになった。「いまでも上から投げたいくらい。でも勝負できないのが分かっているし、この形だから勝負できている」。人と異なる生き方はいまでは誇りだ。

 青柳には夢がある。「格好良くない投げ方だけど、青柳のマネって言って投げる子が将来出ればいいと思っています」。コツコツと物事を積み上げられる性格だ。投手陣のなかでも練習量はトップクラス。いまは疲労もたまり、思うように体が動かない時期だろう。まずはひと休みして、前に進みたい。秋山や横山らと争う先発枠。荒々しく「2年目のジンクス」を吹っ飛ばしてくれ。(敬称略)