プレーバック日刊スポーツ! 過去の3月16日付紙面を振り返ります。2013年の1面(東京版)は侍スモール野球、名将ボウチー監督驚きと称賛でした。

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<練習試合:日本6-3ジャイアンツ>◇2013年3月14日(日本時間同15日)◇米アリゾナ州スコッツデール

 侍ジャパンが世界一軍団を一蹴した。昨季ワールドシリーズ覇者のジャイアンツと、渡米後初の練習試合を行い、6-3で快勝した。小技、足技でチャンスを作り、長打で得点する理想的な攻撃で11安打6得点。日本が掲げる「スモールベースボール」に敵将ブルース・ボウチー監督(57)をはじめ、ジ軍からは驚きと称賛の声が相次いだ。チームは15日(日本時間16日)にカブスと練習試合を行い、準決勝の舞台となるサンフランシスコへ移動する。

 世界一軍団の虚を突いたのは、長野だった。3回無死一塁。初球だった。打ち気満々から一転、バットを両目の先に構えた。「天然芝は転がりが悪い。この芝なら強めにやっていいと思った」と、ボールの下半分にバットを据え、強めにプッシュバントした。三塁手は昨季ワールドシリーズMVPのサンドバルだ。打球は長野の思惑通り、芝で勢いをそがれた。素手でキャッチを試みるも慌てて、お手玉した。長野は忍者のごとく一塁を駆け抜けていた。

 ベネズエラ出身の看板選手は「試合の勝ち方を知っている。ドミニカやアメリカは、パワーで打ってくるけど、日本は細かい技を使ってくる。小技を使うことで他チームとの違いが出る」と驚いた。直後、先発ペティットのボールが浮きだした。「小技を使ってくるので、両サイドに投げなくては」(ペティット)との動揺を突き、鳥谷の2点適時二塁打が生まれた。

 キャンプを張るジ軍の庭で、長野は日本人らしい繊細な状況判断をした。スコッツデール球場の芝は、1インチ(2・54センチ)に刈りそろえられていた。ベテランの管理者は「通常の球場は、0・8インチ(約2・0センチ)がほとんど。監督の意向で、AT&Tパークと同じ長さにしている。特に内野ゴロは勢いが死ぬ」と説明した。足裏で5ミリの深さを感じ取った長野の好判断。「本番でも同じ芝とは限らないので」と謙遜したが、ミクロの方法論は大一番でも武器になる。

 昨年のワールド・シリーズ(WS)は4連勝で2年ぶり7度目の世界一に輝いたジ軍。特に投手陣はWS史上3番目の被打率1割5分9厘の好成績だった。ジ軍のロン・ウォータス・ベンチコーチは、メジャー屈指の理論派で、日本野球の研究も欠かさない。

 ウォータス 過去2大会で日本代表を見たが、細かく仕掛けてくる戦術は、他チームが事前情報として持っている。それを踏まえた上でも、しっかり計画通りのプレーを果たす。ここに、日本がディフェンディング王者である意味がある。

 世界一の参謀をうならせたのは長野だけじゃなかった。4回、先頭の糸井。変化球待ちに絞り、際どいコースを4球カットした。9球目、根負けしたペティットのチェンジアップを三遊間深くへの内野安打とした。次打者・坂本の4球目にモーションを盗み、二盗も決めた。3回と同じように、中田の適時三塁打をお膳立てした。

 ノーヒッターを達成した上、通算252セーブを挙げたデイブ・リゲッティ投手コーチも、統制の取れた攻撃に驚いた。

 リゲッティ 代表チームだから寄せ集めなのに、シーズンも一緒に戦っていると思えるくらいのチーム力がある。日本は1カ月前からキャンプをしている。大きなアドバンテージだ。

 小技、足技、結束。決戦の地AT&Tパークと同じ環境で、世界一のジ軍を相手に、お家芸で勝った。ワールドシリーズ2度制覇のボウチー監督に、ここまで言わせた。「いい試合をした。パワー自慢の打線じゃないのに、ペティットの浮いた球を逃さず、飛ばした。決勝トーナメントに向けて準備ができている」。

 ◆日本のスモールベースボール(SB) 日本は過去WBCで犠打やエンドラン、盗塁など機動力を駆使し、また進塁打など状況に応じた打撃で世界を制した。特にチーム盗塁数と大会結果は相関関係にあり、日本は今回まで3大会連続でトップ。山本監督は就任会見で「国際大会は何が起こるか分からない。1点を取るための作戦も出てくる」と、戦術面でSBを重視。ただ今大会は犠打の成功6に対し失敗も3ある。盗塁も成功率は7割と決して高くない。

※記録と表記は当時のもの