プレーバック日刊スポーツ! 過去の3月26日付紙面を振り返ります。2016年の1面(東京版)は、開幕前の野球賭博問題などで揺れた巨人高橋由伸新監督の初陣勝利でした。

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<巨人3-1ヤクルト>◇2016年3月25日◇東京ドーム

 由伸の監督道は白星から始まった。今季から就任した巨人高橋由伸監督(40)が、エース菅野智之投手(26)が昨年リーグ覇者のヤクルトを7回無失点に抑える好投もあり、初陣勝利を飾った。球団の新人監督で初陣に勝利したのは2リーグ制後では慶大の先輩でもある81年の藤田元司以来。2年ぶりのリーグ優勝、4年ぶりの日本一奪還へ、若き監督が盟主をけん引していく。

 口角が下がり、顔つきが険しくなる。長野の先制ソロにやや出遅れて初々しく3番目で出迎え、エース菅野が迎えたピンチの連続に顔がこわばった。局面で喜怒哀楽が応酬する。高橋監督は初陣で監督業の感情の起伏を思い知った。「勝ててホッとしているが、さすがに疲れました。選手の時も1つ勝つとうれしかったが、監督でこんなにうれしいとは」と、かみしめた。

 開幕前に野球賭博問題などが起こり、船出とは思えない空気が充満した。何度も謝罪の言葉を口にした。開幕セレモニーでも老川オーナーの謝罪に続き、あいさつする異例の場だった。だが試合が始まれば野球に没頭した。2回無死二、三塁の守備では前進守備で先制点献上を死守。「相手にもプレッシャーがかかるし、エースが投げているから」。7回のクルーズの大飛球がビデオ判定に持ち込まれる間に冷静に大西三塁コーチと相談し、代走片岡を送って追加点を呼び込んだ。「最初から最後まで考えっぱなしだった」。決断の連続に頭脳を回転させた。

 就任以来、「個の力を伸ばす」と唱えてきた。決して個に走ることではない。それは春季キャンプで松井秀喜臨時コーチがチームに講義で伝えたことと同じだった。ボードに文字を記した。「個人←→巨人」。似た響きを持つ言葉は濃く結ばれていた。「異なることだけど切り離しちゃいけない。個人のために動くこともあるが、巨人のためにならないといけない」。偉大なOBの言葉が響き渡った。

 だから高橋監督も試合前のミーティングで説いた。「1年やっていれば、良いことばかりじゃない。でも無駄な試合、無駄な打席、無駄な1球もないし、負けていい試合なんか1試合もない。強い気持ちを常に忘れないように、1年間戦ってほしい。勝ちにこだわって、勝ちに最善を尽くそう。みんなで1つになって戦っていこう」。個の積み重ねが巨人の大きな推進力になると信じ、訴えた。

 まだ1試合を刻んだにすぎない。「スタートしたばかり。まだまだ長いシーズンがあり、そのことで頭がいっぱい」。苦悩の戦いを刻むほど、至福の瞬間が待ち受ける。

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 試合前に巨人老川オーナーがグラウンドに立ち、野球賭博や選手間の金銭授受などの問題についてファンに謝罪した。「重大な不祥事を起こし、深くおわびします。野球界全体にも大変な迷惑をかけ、心よりおわび申し上げます。問題が起きた背景をしっかり洗い出し、清新で明るく強い巨人軍に新しく生まれ変わるように選手、球団が一体となって取り組みます」。華やかな開幕セレモニーとしては異例となる反省の意を示した。高橋監督もあいさつし「厳しく、そして温かく支えてくれているみなさまの期待を裏切らないように精いっぱい戦い抜きます」とファンの拍手を受けた。勝利を見届けたオーナーは「無事に開幕を迎えられ、ファンの方に感謝しています。そのファンの方を前に、勝利をもってこたえることができたし、恩返しできたと思います」と話した。

※記録と表記は当時のもの