苦労人が、“史上初の大仕事”をやってのけた。ヤクルト鵜久森淳志外野手(30)が延長10回、プロ野球史上16人目、球団では82年岩下以来35年ぶり2人目、開幕カードではプロ野球史上初めてとなる「代打サヨナラ満塁本塁打」を放った。4-4の同点から3時間56分の熱戦に終止符を打った。15年に日本ハムを自由契約となった長距離砲が、日曜日の神宮に集まった3万を超える野球ファンを驚かせた。

 大舞台で代打に出たが、13年目のベテランらしく気持ちに少し余裕があった。同点の延長10回1死満塁。「最悪、犠牲フライでもいい。ヒットだけじゃない。芯に当てれば何とかなる」。高校通算47本塁打、身長189センチの長距離砲が、バットを数センチ短く持った。

 初球、141キロの低め直球をたたくと「手応えはありました」という打球が左翼席に吸い込まれた。代打サヨナラ満塁弾。3万254人の大観衆が見詰める中、本塁付近で水をかけられると「寒いイメージがあったんですけど、喜びの方が強かった」。もみくちゃになりながら、済美高校時代にも記憶にないというサヨナラ打に酔いしれた。

 準備のたまものだ。杉村打撃コーチは「朝、早出で打っている。取り組みが出たね」と目を細めた。シーソーゲームとなったこの試合、早い回から何度も代打に備えた。出番は延長10回まで来なかったが、その間に力になる出来事もあった。9回、先に代打で登場した左の大松がヤクルト移籍後の初安打。右打ちの鵜久森は「すごい刺激になりました」。昨年、ロッテを自由契約となった大松の気持ちは、自分にも投影できるからだ。

 15年のオフ、11年間在籍した日本ハムを自由契約となった。12球団合同トライアウトを経て、ヤクルトに入団。移籍初年度の昨季は、自己最多の46試合に出場し、35安打を放った。「1回クビになっている。打席に立つ喜びはある。しっかり恩を返したいという気持ちでやっています」。この日は最高の場面で代打起用。「あそこで使ってもらって意気に感じました」。思わず感謝の言葉が口をついた。

 采配的中した真中監督も大喜びだ。「大松にしろ鵜久森にしろ最後の切り札として期待している」。9回にもあった1死満塁では山田、バレンティンで勝負を決められず、苦しんだ試合。野村監督以来、ヤクルトの十八番となっている「再生工場」組の活躍で開幕カードを勝ち越した。

 鵜久森は言う。「もちろんレギュラーを目指しているが、シーズンに入れば役割はいろいろある」。昨年も得点圏で打率3割、満塁で本塁打を含む4割と打ちまくった。1度地獄を見た男は、今季も好機に強さを発揮する。【斎藤直樹】

 ◆鵜久森淳志(うぐもり・あつし)1987年(昭62)2月1日、愛媛県松山市生まれ。済美高に野球部1期生として入学し、3年春に甲子園優勝。夏は準優勝。04年ドラフト8位で日本ハム入団。15年オフに自由契約となりヤクルト入り。189センチ、85キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸1300万円。家族は夫人と2女。