浅村のバント直前。二塁に秋山を置いた場面で、2番源田にはバントのサインが出ていた。

 しかし初球はファウル、2球目はボールとなった。そこでベンチの指示がヒッティングに変わった。3球目。打球は三遊間に飛んだ。秋山は進塁できなかったが、源田は内野安打で一塁に生きた。

 その瞬間、浅村の頭の中に、バントという選択肢が浮かんだ。

 「初回に無死一、二塁。これ以上ないチャンスですよね。その分、簡単に併殺になったら、ベンチの士気が下がると思った。勝つための試合の流れを考えたら、まずは併殺にならないこと。もしも源田が一塁に生きていなければ、考え方は違ったと思います」

 打席に立つと、何げなく三塁手松田の挙動を確認する。前述通り、浅村は最多安打、最多打点の強打者。深めに守り、バントを警戒する様子はみじんもない。

 三塁前にしっかり転がせば、一塁に生きることはできる。たとえセーフにならなくとも、走者は進塁させられる。そうなれば併殺の可能性が消え、犠飛や内野ゴロでも1点という状況で、主砲の中村に回せる。

 「『もしも併殺ならベンチの雰囲気が悪くなる』という考え方は、本来はよくない。ただ、今回だけはそこが大事だと思った。次に中村さん、メヒアもいる。確実に1点を取ることを重視したかった」

 補足したのは、三塁に進んだ秋山だった。

 「アサなら長打の可能性もあるし、打った方が大量得点になったかもしれない。ただ、うちの先発がウルフということを、アサは踏まえていたと思います。1回表、ウルフは相手をまったく寄せ付けず、3者凡退にした。あの内容なら、こっちが1点を取るだけで、相手にはプレッシャーになりますよね」