巨人高橋由伸監督(42)が「動の采配」で首位阪神から2連勝をもぎ取った。先発吉川光が5回に危険球で退場するアクシデントも今季初登板の田原を1死一、三塁で投入し、ピンチを脱出。8回には同じく今季初出場の相川が代打安打で突破口を切り開き、代打の切り札亀井が決勝打を放った。「守り勝つ野球」を体現する内容で2戦連続で接戦を制し、ライバルとのゲーム差を2・5に縮めた。

 意のままに選手が動いた。8回。高橋監督は40歳の相川を代打に送る。相手も7回無失点の左腕能見を右腕桑原に代えた。潮目が変わった。今季初出場のベテランが緩く、だが執念の重みを増したような打球で一、二塁間を破る。俊足の重信を代走に送り、犠打が不得意な長野が不格好ながらしぶとく成功させた。お膳立ては巨人の“現代打の神様”亀井のために整えられた。今季全打点を代打で稼ぐ男は、この日も寸分狂わず決勝打を右前に運んだ。

 無駄のない、流れるような作戦を指揮官が描き、選手が遂行した。初戦の1-0勝利に続く大接戦を制し「展開的にも昨日と同じ。点が取れず、苦しかったが、終盤にみんなでつないで後から出た選手がいい活躍をした」と、たたえた。

 就任1年目の昨季は接戦に弱いチームだった。代打陣が手薄で手駒が少なかった。駒が少なければタクトは限定される。秋季キャンプで若手の鍛錬を見ながら「実績のあるベテランが後から出てくるようなチームにならなければ強くならない」と感じていた。今季は途中から飛車角を送りこめる。亀井、村田、脇谷。熟練者が勝機をかぎ分ける。昨季は代打成功率1割7分1厘で12球団ワーストも今季は2割6分8厘でトップ。豊富な代打陣へつなぐ作戦も自然と幅広がった。

 信頼も采配の妙となる。4回まで完全投球の吉川光が5回に危険球退場。ブルペンは整っていなかった。昨季64試合登板も今季は故障の出遅れで未登板の田原と、桜井をスクランブルさせた。先に10球で肩ができたことに加え「もともとこういう場面で期待していた選手」と田原に危機を託した。1死一、三塁を見事に切り抜けた。

 用兵が実っての勝利。打線の活発化も望むが、一方で理想的でもある。1月の所信で「守り勝つ野球」を掲げた。序盤は中井、石川の美技で支え、終盤の采配と実行力が融合した。高橋監督は「大勝で連勝はなかなかない。接戦を取れれば勝ちが増える」と言う。野太いチームへ進化を遂げつつある。【広重竜太郎】