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 本塁打王に輝くこと6回。並外れた実績を持つ中村は、ファンに愛される一方で、課されるハードルも高い。少しでも凡打が続けば、すぐ批判にさらされる。

 割り切ったような空振り三振は「次の打席が怖い」と対戦相手に不気味な印象を残すが、世間からは「打席を捨てたようだ」ととられる向きもある。変わらぬルーティーン、リズムも、人によっては「打つ気がない」と映ってしまう。

 それでも淡々と、打席を重ねる。見た目も相まって、マイペースと思われがちだが、実は違う。

 試合前の練習。中村は早くからグラウンドに現れ、ウオームアップを始める同僚たちに話し掛ける。

 野手陣はもちろん、投手陣の輪の中にも入る。

 「雄星、被打率1割台やて? 頭が上がらんわ。で、いつメジャーいくん?」

 「増田、昨日マリンで154キロ出とったやんか。自己最速ちゃうの?」

 後輩たちをいじり倒し、場の雰囲気を和ませる。そしてバランスボールを使ったストレッチをしながら、早出特打ちをする若手選手たちの動き、顔色を何げなくチェックする。

 4月なかば。開幕から先発に抜てきされながら、結果が出せずに苦しむ田代を「そろそろ息抜きのタイミング」と真っ先に夕食に連れ出したのは、中村と渡辺直だった。

 同じく先発抜てき組の木村文が、不振脱出へ打撃フォーム修正を繰り返し、もがいている様も見逃さない。すれ違いざま、さりげなく示唆する。

 「お前の課題、なんやったっけ?」。木村文はそのひと言で「軸足側に体重を残して投球を待つ」と修正ポイントを明確にできた。

 そうやって周囲とのコミュニケーションを欠かさず、雰囲気を明るくする。菊池雄星の被打率、増田達至の球速など、イジリのための情報収集も入念。そう指摘すると、ニヤリと笑う。

 「ま、空気は読める方だと思ってるんで。一応、いろいろ考えてやってます」

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 空気を読めるなら、それをプレーや取り組みに生かすというやり方もある。

 目に見えて打撃を修正する選手の方が「努力している」ととられる。

 凡退した後、悔しがる選手の方が「気持ちは入っている」とフォローされる。

 しかし、中村は揺るがない。変わらぬルーティーンをなぞって投球を待ち、たとえ凡退しても、淡々とベンチに引き揚げる。

 「打ち損じれば、ため息が聞こえてくることもある。それでも気持ちが揺らぐところはみせちゃいけない。期待してくださるファンに申し訳ないと、毎回思います。それでも4番だったら、静かに引き揚げないといけない」

 今日も中村は、登場曲に合わせてゆっくりと素振りを始めるところから、不変のルーティーンを始める。

 「幸い今は浅村や秋山が打ってくれている。でもいずれ、彼らが打てなくなる時も来る。その時には自分が打たないと。そのためにも今はオタオタせず、自分の調子が上がってくるのをじっくり待ちます」

 強いムカイカゼが吹いても、4番打者なら揺らいではならない。昂然(こうぜん)と胸を張り、打席に向かう。【塩畑大輔】