西武が辻発彦監督(58)の硬軟織り交ぜた采配で、投手戦を制した。4回に武器の足を使って先制点を奪取。9回には自らマウンドに赴いて守護神増田を激励し、虎の子の1点を守りきった。1-0勝利は今季初で、貯金を最多の11に伸ばした。6月は8勝1敗1分けと絶好調。辻野球で獅子が波に乗っている。

 まさかのひと言だった。1点リードの9回2死一塁、打席にDeNAの5番宮崎を迎えた場面だった。辻監督は就任して初めてマウンドに向かった。抑えの増田にかけた言葉は「大勢の観客の前で1度、来てみたかったんだよ」。9日には9回に逆転2ランを浴びたばかり。同じ展開で緊張感が漂うところで、絶妙な間をつくった。雰囲気が和んだところで続けた。「守ってるから思い切り投げろ」。守護神は力のこもったスライダーで一邪飛に仕留め、接戦を締めた。

 増田は「打者に集中できた。任された仕事を果たせてよかった」と、土壇場の激励に感謝した。辻監督は「苦しいところを抑えてくれてきた。責任を感じるポジション。増田が抑えてくれたことが、今日は一番うれしかった」と喜んだ。冗談のようなひと言が、守護神に本来の力を発揮させた。

 貴重な1点は、勝負師の顔で奪い取った。4回1死三塁。三塁走者は俊足の金子侑、打者は秋山。指揮官が出したサインはゴロゴー(打球が転がった瞬間にスタート)だった。「勝負の場面。これしかないと思った」。秋山の打球は高いバウンドで前進守備の二塁手前へ。本塁はクロスプレー。抜群のスタートを切った金子侑は頭から滑り込み、伸ばした左手でホームをかすめ取った。

 信頼に裏打ちされた計算があった。思い切りのいい走り出しとヘッドスライディングの両方がなければ、アウトの可能性が高いタイミングも「金子(侑)は状況を見ながら、そういう走塁をしてくれる選手だから」。ギャンブルスタートの指示を出していれば併殺の場合もある。リスクを回避しながら、金子侑の走塁センスを信じたからこそ、奪えた得点だった。

 緊迫感ある投手戦を制し、貯金は今季最多の11。辻監督は「こういう形で勝つことに価値がある。しんどいけど、こういう試合を重ねていけば必ず強くなる」と力を込めた。柔らかさと鋭さを兼ね備えた辻野球。西武が確かな勢いに乗ってきた。【佐竹実】