巨人中井大介内野手(27)が、メモリアルアーチで球史に名を刻んだ。4回1死、ヤクルト岩橋から5号ソロ。プロ通算10本目のアーチが、史上初の球団通算1万本塁打となった。中井は先制打を含む2安打2打点で、17日DeNA戦以来のスタメン起用に応えた。11年連続となる逆転CS出場を目指すチームは最下位ヤクルトに3連勝。試合のなかった3位DeNAとのゲーム差を1に縮めた。

 スタンドインを確信した瞬間、中井の表情がこわばった。4回1死。フルカウントからの内角直球をコンパクトに捉え、左翼席にきれいな弧を描いた。「内角球に体が反応した」。喜びの直後、これが球団通算1万号だと気付いた。「あ、やばい」。プロ通算10本塁打の“伏兵”が放った記念弾。どよめき混じりの大歓声の中、苦笑いでダイヤモンドを1周した。

 3連勝の立役者として菅野と上がったお立ち台でも、満面の笑みとはいかなかった。「すごく光栄なことなんですけど、少し複雑というか…。僕で良かったのかなという思いもありますけど…うれしいです」と、控えめにほほ笑んだ。

 レギュラー奪取を目標に掲げて臨んだ今季は、結果が出ずに苦しんだ。「1番二塁」で開幕スタメンも不振にあえいだ。それでも心は折れなかった。「結果を出さないと立場は変わらない」とバットを振り続けた。

 入団5年目に授かった金言がある。1軍に定着できなかった12年。当時現役で“走塁のスペシャリスト”といわれた鈴木尚広氏に、緊張との付き合い方を聞いた。「自分のワールドをつくるんだ。主役になってね。ここですべきプレーは何か、理論的にイメージするんだ。僕も代走では歓声が聞こえなくなる。ゾーンに入るんだよ」。勝負どころの代走で期待に応え、輝きを放つ先輩の言葉に「中井ワールドをつくります!」と大きくうなずいた。

 あれから5年。負けられない一戦で先発に抜てきされても、力みはなかった。「重圧を感じる立場じゃない。できることしかできない」。この日から、かつて作製していた高橋監督モデルのバットに変更。2回には先制適時打も放ち、堂々の主役を張った。

 現役時代に一緒に自主トレもした指揮官は「紙面上、もう少し名前のある人が良かったんじゃない?(笑い)」と冗談まじりにたたえた。残り4試合。3位DeNAとは1ゲーム差だ。中井は「全部勝つつもり」と力を込めた。1万号を決めた中井のような“主役級”のパワーが、逆転CS進出に必要だ。【浜本卓也】

 ◆中井大介(なかい・だいすけ)1989年(平元)11月27日、三重県生まれ。宇治山田商で07年夏の甲子園に出場。同年高校生ドラフト3巡目で巨人入団。通算272試合、10本塁打、48打点、打率2割4分8厘。183センチ、88キロ。右投げ右打ち。

 ▼巨人中井が4回、岩橋から5号ソロ。これがチーム通算1万号となった。チーム1万号に到達したチームは史上初(2位は西武の8784本)。チーム初本塁打は36年7月15日タイガース戦(山本球場)で、中島治康が若林忠志から記録している。500本ごとの節目の1発は8000号からローズ、小笠原、ラミレス、ロペスと外国人や移籍加入選手が続き、生え抜きでは02年に現監督の高橋由伸が7500号を打って以来。1万本の選手別内訳は王貞治の868本を筆頭に296人が放っている。