日刊スポーツでは、日米通算203勝を挙げ、昨季限りで現役を引退した広島OB黒田博樹氏(42)のCSファイナルステージ「観戦記」を掲載します。第1戦では、CSまで公式戦の登板間隔が空く先発投手の心境や、今季ブレークした広島薮田に送った現役時代のアドバイスをつづります。

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 先発薮田がシーズン同様の投球をできたことが広島の先勝につながった。メジャーと違って日本は優勝したチームが2週間ぐらい戦う相手を待っていなければならない。選手はみんなそうだろうが特に先発投手にとって間隔が空くのはイヤなものだ。

 ボクも例えば昨季、登録抹消されて10日間空いて初めてマウンドに立つときはこわかった。社会人チームとの練習試合で投げたといっても、プロ相手とはやはり打者の反応が違う。

 だから薮田の立ち上がり、どういう投球をするか見ていたが落ち着いていた。昨季、ボクが彼によく言ったのは初球から四隅を狙うなよ、ということだった。薮田のように球威、キレがあって、球種も豊富で、しかも小さなテークバックで打者がタイミングを取りにくい投手は、初球から制球を気にしすぎる必要はないと思っている。

 初球は上下でも左右でもいいからストライクゾーンを2分割する感じで投げる。それで1球目にストライクが取れたら、次は4分割して、そのどこかに投げる。さらにうまく追い込めたら、そこで初めてよく見る9分割にして、投げればいいということだった。

 今季はそれを意識して投げているな、と思っていたが、この日もその感覚で投げることができたのではないか。3回1死一、二塁で打者桑原の場面。最初の打席で右飛だった桑原は右方向を意識しているかもしれないなと思って見ていた。

 そこへ真ん中のやや内角寄りに飛び込んでいくストレートを投げた。それを打って併殺になったのだが、あの1球で薮田はそんなにコースを意識しなくても思い切って投げ込めば打ち取れるということを再認識できたのでは、と思う。

 1回に四球で出た梶谷を筒香の場面で刺せたのも大きかった。会沢の送球はワンバウンドになったが田中がよく抑えた。成功していれば二塁に走者を置いて筒香。それがあっという間にチェンジになった。これは天と地ほど違う。前日、甲子園で1回に能見を攻め、イケイケのムードで阪神を倒して広島にやってきたDeNAの勢いをそぐことができた気がする。

 雨の影響で5回で終わったとはいえ、薮田1人で投げ切ったことはチームにとって大きい。2戦目にリリーフ投手をつぎ込める。先発投手だけで終わったのはDeNAも同様だが勝てば王手の広島が有利だ。