日本シリーズ初先発のソフトバンク千賀滉大投手(24)は、最高の舞台を心の底から楽しんだ。「たくさん人が入って声援が心地よかった」。初回、力みまくって2四球で2死一、二塁のピンチを迎えたが、宮崎を三ゴロで切り抜けた。7回4安打1失点。「調子はあまりよくなかった」という中、「育成出身バッテリー」の甲斐と頭をひねり、最速152キロの直球と代名詞のお化けフォーク、スライダーに時々カーブを交え、DeNA打線を翻弄(ほんろう)した。

 この日、一塁側スタンドには愛知・蒲郡市から千賀の両親と祖母、妹が駆けつけた。甲斐の母小百合さん(50)も大分から駆けつけており、千賀の母和江さん(47)と抱き合って喜びを分かち合った。甲斐を女手ひとつで育てた小百合さんは「こんな舞台に一緒に立てるなんて。この時期になると毎年、クビになるかとドキドキしていたのに」と、涙を流した。和江さんも「入団したときはお互い3年持つかなって話していたのに」と息子たちの姿を頼もしそうに見つめた。

 10年育成ドラフト4位が千賀、6位が甲斐だった。日本シリーズ第1戦の舞台となったヤフオクドームで、この日2人と同期の育成伊藤大が戦力外通告を受けた。同年支配下ドラフトの星野、坂田も今年で解雇された。そんな厳しい世界ではい上がり、生き残り、主役の座をつかんだ。

 CSファイナルでは第2戦先発も日本シリーズでは第1戦に抜てきされた。工藤監督は「1戦目を何が何でも取りたかった。球の力もあり、フォークもあるので」と説明。千賀がつくった流れに乗り一気に日本一を奪回する。【石橋隆雄】

 ▼千賀がシリーズ初先発で初勝利を挙げた。育成ドラフト出身選手が日本シリーズで勝ったのは、09年山口鉄也(巨人)が日本ハムとの第5戦、11年山田大樹(ソフトバンク)が中日との第5戦で記録して以来3人目。先発では山田に次いで2人目だ。育成ドラフト以外の育成出身では09年第3戦のオビスポ(巨人)、10年第2戦のチェン(中日)も勝っている。