苦節13年目の“初任給超え”だ!! 阪神岡崎太一捕手(34)が20日、西宮市内の球団事務所で契約更改交渉に臨み、400万円増の1700万円でサインした。04年に自由獲得枠で入団した当時の年俸1500万円を初めて上回った。今季は6月にプロ初本塁打、翌日はプロ初のサヨナラ打と連日の大活躍。底力を発揮した苦労人が「感動料」ゲットで来季の正妻奪取を誓った。(金額は推定)

 プロ野球ならではの光景だった。13年働いて、初めて新人時代の給料を超える。うれし恥ずかしのアップ査定だった。ルーキーだった05年の年俸を超えた点を問われると、苦笑いで言った。「情けないハナシですが…」。2年連続の昇給で1700万円にアップ。05年新人時代の1500万円をようやく上回った。

 勝負の世界に生きる男の意地だろう。今季も「戦力外」と背中合わせ。転機は6月だった。開幕1軍を迎えたが、それまで1安打。2日の日本ハム戦は2点リードの6回1死二、三塁でスクイズを敢行したが、空振りの失敗。逆転負けの引き金になった。

 「1戦目、自分のミスで負けてしまった。自分のなかで、これが最後になるかもしれない気持ちで挑んだ試合だった。そのなかで結果を出せたのは良かった」

 背水の陣だ。翌3日も先発出場し、4回に誰もが驚く逆転2ラン。プロ13年目の初アーチは、阪神在籍年数では野手で誰よりも遅い1号だった。さらに4日はファウルで8球粘って左翼線を破る、初体験のサヨナラ打。神懸かりの3日間で存在感を示した。5カ月半後のこの日、あの奮闘は「感動料」として報われた。

 ベンチを温める日々も、もっとも本塁寄りに座る。バッテリーの球筋を確認し続け、監督ら首脳陣の話に聞き耳を立てる。時間があれば、ベンチ裏でレガースをピカピカに磨く。「汚れていたら、投手も『何や』と思うでしょう」。数少ない出番を待ち、腐らず、ただ、ひたむきに準備するのだ。だから、いまも、現状に満足することはない。この日もキッパリ言い切る。

 「ああいうのをプロの世界は1試合2試合だけじゃなくて続けていかないといけない。今年は今年で終わった。来年、もう1回、レギュラーをとるという気持ちで、若いヤツに負けない気持ちでやっていきたい」

 交渉役の嶌村球団本部副本部長は「先発マスクの機会は少なくなっているけど、チームに貢献してくれている」と評価した。梅野、坂本らが正捕手争いを繰り広げるが、ベテランもまた、目の色を変えて定位置を奪いに行く。【酒井俊作】