仕事人が決めた。西武栗山巧外野手(34)が5-5の8回2死一、二塁に代打で登場。ロッテ益田から右前に決勝打を放った。17年目の今季は出場機会が限られるが、準備を怠らず、ここぞの場面で輝いた。菊池が8回までに5失点と敗色濃厚だった。それでも、8点差をひっくり返した18日の日本ハム戦同様、終盤の逆転劇。73年以来45年ぶりの開幕から本拠地7連勝で、貯金9。早くも、3、4月の勝ち越しを決めた。

 栗山は、虎視眈々(たんたん)と待っていた。2点を追う8回。1死から四球が続いた。「クリ、行くぞ」。声がかかった。スイングルームで素振りを繰り返す。「自分のスイングを」と念じながら振った。敵失で同点。中村が歩き、なお2死一、二塁。出番だ。

 集中力は極限まで高まっていた。初球を振った。益田の148キロをファウル。「展開を読むと振れなくなる。自分のタイミングで振ることだけ」。ボールが3つ続く。5球目。真ん中146キロを打った。一塁井上が飛び込む先、強いゴロで抜いた。一塁に達し、二塁走者・外崎の生還を見届けた。右手で敬礼。表情は崩さなかった。

 16年間の生き様が詰まっていた。昨季まで1644安打を重ねたバットマンが、ベンチを温めることが増えている。体調は、問題ない。調子も、悪くない。チームが勝ち続け、レギュラーが固定される現状がある。「決して後ろ向きにはならない。気持ちの上下動はあるけど、グラウンドに来たら自分のプレーを出来るように準備する」と決めている。何よりも大切にする「準備」を怠らなかった末の一打だった。

 苦い思い出がある。正確な年は覚えていない。まだ若かった。ある回の攻撃。自分まで回ってこない、と思った。思い込んだ。慌てて肘当てをつけネクストに。凡退だった。「準備だけは、誰でも出来るんです」。結果がどうなるかは分からない。が、良い結果を生むための努力は最大限すべき。ポリシーとなった。

 神懸かり的な8回の猛攻が続く。18日の7得点、この日も6得点。栗山は「8回は行けそうな感じがある」と、うなずいた。本拠地で開幕7連勝。10年前の優勝を知る少ない1人は「まだ4月半ば。でも、勢いがある。当時と比べようはないけど、似た雰囲気を感じます」と締めた。首位を走る獅子の群れに、頼れる男がいる。【古川真弥】