一塁側ベンチ前で、両手を広げたヒーローにベンチは静まり返った…はずだった。ヤクルト青木宣親外野手(36)が、1-1で迎えた8回無死、巨人山口俊の145キロの高め直球を右翼席に運び、日本復帰第1号の決勝ソロを放った。

 「行ったと思ったけど、久しぶりなので。日本に帰ってきて1号。ああいう打球が出てなかったので」と、感触を忘れかけていた。笑顔でベースを1周すると、小川監督、宮本ヘッドコーチは軽めに出迎えたが、ベンチの選手は誰も立ち上がらない。なぜだと両手を広げた青木が、ベンチに入ると、一気に祝福の嵐がわき起こる大リーグ流の「サイレント・トリートメント」で祝福された。ただ本場を経験している青木は「(山田)哲人がにやけていた。あそこで笑っちゃダメでしょ。しらっとしてないとダメ」と、まさかのだめ出しで笑いを誘った。

 大リーグ6年間で774安打を放ったヒットメーカーも、日本での本塁打は11年10月8日の広島戦以来7年ぶりだった。無名のエースだった高校時代までを過ごした宮崎の隣県、鹿児島での一戦。「なじみの深い場所。この気候が合っているのかもしれない」と九州のファンに感謝した。

 ヒーローインタビューを終えると、陰に隠れていた広岡から水をかけられビショビショになったが笑っていた。9日にソフトバンク内川が2000安打を達成した直後、自身の節目を振り返って言った。「生き残りを懸けていたから。2000安打で喜んだのは一瞬。すぐに次の1本って思った」。何があっても次の1安打を追い求める。その姿勢が、こんな劇的アーチの礎になった。【前田祐輔】

 ▼青木が日本復帰後初の本塁打。青木の日本での本塁打は、11年10月8日広島戦(神宮)以来7年ぶり。これが勝利を決める勝ち越しの1発となった。青木の日本でのVアーチは11年7月29日巨人戦(福島)で沢村から先頭打者本塁打を放って以来で、前回も地方球場での巨人戦だった。青木の本塁打は日本通算85本目だが、九州では初めて。